NO 10: 金のことを考えない選手ほど大成する!?
週刊漫画サンデー7/15号

中野浩一 どうしても知りたいけれど、どうしても聞けないことってありますよね。プロレスラーのファイトマネーもそのひとつで、未だに私にとっての謎の一つなのです。

 後輩のレスラーに聞けばいいとは思うものの、命がけで闘っている人間にそんな些細なことを聞くのはこちらの器量が疑われるというもの。この疑問に終止符を打つチャンスは過去に一度だけあったのだが・・・この時は怖くて聞けなかったのだ。

 かつての国際プロレス会長の吉原さんは早大アマレス部の大先輩。声が掛かればどこへでも跳んでいかざるを得ない。あれは十数年前の高田馬場の寿司屋だった。「アキラ強くなれや。」と飲めや、食えやと馳走になった。貧乏学生だった私にとってそれは本当に涙の出るくらいうれしい先輩の労りだった。 だが吉原会長のお招きの主旨は私を国際プロレスで育てることだったのだ。丁度モスクワ五輪ボイコットの年で、かなり落ち込んでいた私には有り難い話しではあった。でも同席していたラッシャー木村さんの額の深い皺を見ると、これは「かなりの決心」のいる事柄であると思わざるをえず、しばし黙考。

 思い切って「それでいくら頂けるんですか?」と聞いてはみたものの、吉原会長の目つきが変わったのを見て、私は前言を悔やんだ。「いくらか聞きたいか?」凄みのある低い声だった。私はすかさず「結構です。すみませんでした。」と平身低頭。木村さんが「プロレスは面白えぞ。」と間に入ってくれなかったら、と思うとぞっとする。あそこで私が金額を聞いたら最後、私のアマレス生活は終わっていたのだ。本当にラッシャー木村は優しかった。

 時代は変わって、ついこの間の話、競輪界の大御所中野浩一さんと杯をともにした。世界選手権十連覇。日本のスポーツ選手で初の一億円プレーヤーとなった男である。レスラーの懐の謎に封印をしている私はまたも競輪選手の所得に関心を抱いてしまうのだった。競輪界から昨年アトランタ五輪に初めて出場し、銅メダルを獲得した十文字君の報奨金が六千万円。この世界どうも儲かるらしい。私は銀メダル二個取ったのにな。ともかく競輪選手の年収は二千万円が平均値だそうだ。

 「どうせスポーツやるなら競輪ですかね。Jリーグもサテライトでは稼げませんからね。」そう吐かざるを得ない私だった。ところが中野さんはキャップのひさしに手をかけて、「うん。でも問題は金じゃないだろ。俺はともかく競輪が好きだった。思い切り練習して、思い切り喰って、思い切り眠る。そうすりゃきっと次の日はいい走りができる。それだけ思って生きていた。いくら稼げるとか考えたこともない。」ときた。 その答えを聞いて忘れていたあの感覚が蘇った。闘うことだけを求めていた日々だ。朝から晩まで練習して、鱈腹チャンコを食べ、ひたすら眠るレスラーの見る夢も明日にはもっと強くなっていることだ。そこにあるのは好きなスポーツへの純真さだけ。長年の胸の支えが取れた気分だった。

  そうだ闘魂に金は二の次。初心に戻って私も頑張るぞ。新しく建てた家のローンのためにも。そして愛する妻と四人の子供のためにも・・・やっぱり競輪に挑戦しようかな。

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