NO 4: すごみを表現できる男・山下泰裕
週刊漫画サンデー6/3号

 案の定、小川、橋本第二戦はプロレス流に決着がついた。それにしても小川!やられすぎだぜ。アメリカに渡るにはいい負けっぷりだったが、その前に太田道場にきてちょうだいよ。長州さんも谷津さんも俺のところで練習してた「アマレスの味方」なんだから。Yasuhiro そういえば、石沢常光が帰ってきた。ケンドウ・カシンだ。あいつの強さだけは俺は認める。なんせ元全日本フリー82kgのチャンピオン、しかも早稲田の後輩だ。

 小川、橋本に破れたり。だから「プロレスが一番強い」という人はご一考を。闘いにはルールがあるということを。なぜ異種格闘技戦が可能なのか?それはジャンルが違う格闘技を同じアリーナで勝負させるために設定される「ルール」があるから。そのルールの下で、誰が強いのか?というのが問題で、それが例えばプロレスがアマレスより強いというジャンルの闘いになるのは取り違えでしかない。

 かつてアントニオ猪木が赤鬼ルスカと異種格闘技戦に挑んだ時のルールはプロレスより、アリ戦ではあきらかにボクシングより。ルールという約束があるからこそ、その中での格と格の闘い(格闘技の語源)が面白いのだ。ところが、小川・橋本戦を報じるマスコミにこのルールについて触れているものはほとんどない。格闘技の場合、特に異種格闘技の場合、ルールという背景の中で、闘う人格が表現する「すごみ」を体験してもらいたい。

 そのすごみを表現できる格闘家は数少ないが、私の敬愛する友人の山下泰裕もその一人だ。1980年幻のモスクワ五輪。私も山下も初めての五輪出場に胸を膨らませていたが、ご存知のとおり日本はボイコット。俺たちの夢は無惨に消えた。俺たちはそれ以来辛苦を共にする友となった。二人で誓ったロス五輪出場。山下は準決勝で筋肉断裂という最悪の事態に陥りながら堂々と金メダルを獲得した。俺も奴に負けじと日本人レスラーで初めて重量級銀メダリストになった。この決勝での攻防は格闘技の求道者にとっては、素晴らしいバウトだった。相手のラシュアンは山下が小さく見えるほどの巨漢。実力的には差があるといっても、一本足で闘わなければならない山下にとっては、かなりのハンディキャップ・マッチだったはず。

 柔道精神に助けられて、つまりラシュアンは山下の痛めた足を攻めるような卑怯なまねをしなかったために、山下が勝利を得たとも言われている。しかし、事実はそんな生やさしいものではない。格闘家たるもの相手の弱いところをつくのは、当然の道理。ラシュアンが痛めていない方の足を狙っていったのは、それが軸足であったからだ。それを充分承知の山下が軸足を攻めてきたラシュアンをすかして寝技に持ち込んだというのが、真相。勝負こと格闘技の世界は非情なものなのである。そんな凄まじさを露とも知らぬスポーツ界のお偉いさんはラシュアンの武道家ぶりを褒め称え、フェアプレー賞を与えた。まあ、いためた足だけを狙うことはしなかったもんね彼は。うん。定められたルールの中で、許される限りのことを試みる攻防。格闘技の真髄ここにあり。 

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