
格闘技は進化する。去る
10月12日に行われたK1 WORLD MAX2005を見て、その思いを強くした。「K1のKは、空手、キックボクシング、カンフー、拳法など立ち技格闘技…の頭文字を意味する」とK1公式ウエブにある。大男たちが防御なしに殴りあう壮絶な格闘技が現れた1993年の衝撃は記憶に新しい。それはダッキングの許されているキックボクシングとは全く異質な超攻撃的格闘技として登場した。その後の人気と隆盛は周知の事実であるが、この日の試合には、ボクシングの元日本王者が二人出場した。スーパーウェルター級元王者の大東旭、そしてミドル級元王者の鈴木悟である。鈴木の場合は、今年の6月まで現役のボクシングチャンピオンだった。K1の世界にプロボクサーすなわちパンチの専門家が本気で参戦したのである。大東はボクシングシューズを履き、キックによる攻撃を自ら禁じ、K1MAX初代王者のアルバート・クラウスに挑んだ。ボクシングのパンチ力を有効にするための手立てである。足腰を安定させた状態で、腕力を最大限に引き出す作戦。まさにボクシングでK1を制す覚悟だっただろう。ゴングと同時に怒涛のパンチを繰り出す大東にボクサーとしての意地を見た。しかし、その後、クラウスは大東へのローキックを適所で出しながら、両手両足「四つの武器」により、攻撃を有利に進めていった。
一方、鈴木は、シューズを脱いで、K1格闘家としての闘い方を選んだ。相手はキックボクサーのマイク・ザンビディス。あの山本“
KID”徳郁を一発で仕留めたパンチ力が注目を集めていたが、彼も鈴木の足を攻めることを忘れなかった。大東も鈴木も自信のパンチを有効打とできず、足から崩れた。ボクシングの試合で足が攻められることはない。K1とボクシングの違いは、その「間合い」である。足を無防備にしてもいい「間合い」でのパンチはK1では一撃になりにくい。
レスリングでは、下半身の攻撃が禁じられているグレコローマンとそれができるフリースタイルがある。大東とクラウス、鈴木とザンビディスの試合に、グレコローマンとフリースタイルのレスラーの試合を思い浮かべてみた。グレコローマンのレスラーが、足へのタックルを受けたら一溜りもないはずだ。
そういえば、ロス五輪(
1984年)出場が決まった当時、私にとって格好のスパーリングパートナーは馳浩であった。グレコローマン代表になった馳が同じ体重(90キロ級)だったからである。フリースタイルでのスパーリングでは、足技の使えない馳を面白いように転がすことができた。もちろん、グレコローマンスタイルでは、手も足もでないのだが…レスリングの原型はグレコローマンである。グレコローマンの試合中、足にタックルを仕掛けた選手からフリースタイルが生まれた。上半身だけの闘いからの自由(フリー)が誕生した。それによって攻守のパターンが多様化した。フリースタイルの原初の呼称「
catch as catch can」には格闘技の進化のヒントが見事に表現されている。「できる術
’(すべ)を尽くし、可能な限り相手を捕まえろ!」とは私の意訳であるが、これをK1に当てはめれば、「kick and punch as kick and punch can」=「すべてを尽くして、可能な限り打撃せよ!」である。手足の攻撃は、1+1=2ではなく、2の2乗にも2の6倍にもなりえる。連係ならば2の6乗、これに防御を加えればさらに多くの攻守パターンが生まれる。いかにボクシングで頂点を極めた格闘家たちでも、1+1=2でこれに対抗するのは至難の業である。打撃格闘技の「自由化」を追求してきた源流がK1に流れ込んでいる。「立ち技格闘技最高峰の場」と自称する充分な根拠ではないだろうか?ボクシングチャンプの勇敢な挑戦がそのことを私に改めて教えてくれた。