vol.286 選手も五輪運動も国を超える~IOC選手委員会の意味~

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  週 刊 ス ポ ー ツ 思 考 vol.286
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選手も五輪運動も国を超える
~IOC選手委員会の意味~


 共同が伝えるところ「昨年、2012年のロンドン五輪で行われた
国際オリンピック委員会(IOC)選手委員選挙で、陸上男子ハンマ
ー投げの室伏広治選手(38)の当選が無効とされた問題で、スポー
ツ仲裁裁判所(CAS)は22日、選挙規定違反はなかったとする同選
手と日本オリンピック委員会(JOC)の訴えを却下した。
 CASは発表文で『JOCが規定を順守しなかった。室伏選手の信用
とスポーツマンシップは傷つかない』と説明した。
 室伏選手は選挙で当選に必要な票数を獲得したが、自身の名前入
りグッズを配布したことや、選挙活動を禁じた食堂での行動が問題
視された」

 ところで一体、IOC選手委員会というのは何なのだろう?この問
題がスポーツ面で大きく取り上げられても一般にピンとこない方
がかなり多いのではないだろうか?一連の報道を見ていると、記
者諸氏もJOC関係者自身もその存在の意味を理解していない節が見
受けられるので、筆を執ることにした。

 そもそもIOCに選手委員会が設立されたのは1981年、サマランチ
がIOC会長に就任した最初の「改革」のひとつであった。それは、
IOCに選手の声を反映させるという歴史的な意義を持つものだった。

 当初は会長の指名によりオリンピアン(オリンピックに出場した
事のある選手)が数名任命され、IOC、IF(各国際競技団体)、NOC
(各国オリンピック委員会)と選手との架け橋となって、五輪運動
の推進に尽くすことを使命とされた。

 五輪運動は、本来、オリンピックの主役である選手の思想や哲学
を反映させて運営していかなければならないとの考えからである。

 サマランチは五輪商業主義の権化などと言われるが、それまでの
IOCになかった五輪運動推進のための画期的な戦略を持っていたの
である。選手委員会設立もそのひとつで、選手委員会委員長は、
IOC理事会のメンバーともなる。

 そして、かつて日本人でこのIOC選手委員となっていた人がいた
ことも余り語られていない。長崎宏子である。

 1992年秋、JOCに就職した直後IOCインターンシップでIOC本部で
研修し、IOCの指名で1993年から、IOC選手委員となった彼女は1994
年のパリ、オリンピックコングレス(全体会議)で、大聴衆を前に
選手を代表して堂々のスピーチをし、当時のIOC幹部を擒にさせた。

 時の選手委員委員長はフィンランドのタルバーグ(ヨット)。東
京五輪に出場したこともあり、親日派で私も親しくさせてもらった。
彼の主導で、1996年アトランタ五輪から、IOC会長指名制から、まさ
に現役選手による投票での選手委員を決める方法に変更することに
なった。

 五輪選手の代表が選手委員であることを「民主主義的」に「選手
の選手ための選手による」選挙によって決めるようにしたのである。

 ここが肝心で、五輪選手が五輪哲学によって、五輪選手を選ぶ、
つまり、政治も、宗教も、人種も、そしてもちろん国をも超えて、
五輪運動の見地から選手を選ぶという次元に向かう改革を行ったの
である。(もともとIOC会長指名という方法でもこの理念は実践で
きるが、貴族主義から民主主義への移行を試みた)世界の選手の代
表となるべき選手委員を選ぶの思想である。

 JOCの目論見は、JOCのために日本人選手委員を出したいというに
過ぎない。規定を逸脱してまで選挙に勝とうとした有様だけが、記
録された。内向きの仕事しかできないオリンピック委員会をどうし
てIOCが認めようとするだろうか?

 そもそも長崎がIOCから指名を受けたという事実は、当時、IOCと
JOCが密接な関係にあった何よりの証である。当時のJOCはIOCに認め
られていたのである。そして、それだけの人材を要していたのである。

 IOC会長から指名された選手委員たちが、選手のための選挙への改
革実現に尽力する姿こそまさに五輪哲学ではないか。その中に日本人
選手委員、長崎宏子もいたのである。

 そういう歴史をおざなりにして、目先の功利のために大事な選手を
ひっぱりだし、選挙活動をさせる了見は論外としかいいようがないだ
ろう。

 IOC委員が、IOCから各国に派遣されたオリンピック大使であるよう
に、選手委員は、オリンピック運動とともにある選手を代表するもの
であって、国内オリンピック委員会を代表するものではないのだ。

 オリンピックの真理を理解しないで、事務的に五輪運動をこなして
いれば、何をやってもこうした事態が起こってくる。その瓦礫の処理
だけでも何年もかかるだろう。

 室伏が選挙に落ちた、落ちないの話題だけでIOC選手委員会選挙を
見つめる視点には、本当の五輪運動が見えないのは当然と言うしかな
いのだろう。

 (敬称略)
 
2013年5月24日
         
                        明日香 羊
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編集好奇
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 光文社フラッシュ「皇帝サマランチから長野五輪をもぎとった男」
連載(全四回)が終わりました。
 当時を回顧し、スポーツポリティックスの現場にいた時空が戻って
きた気がしました。
 その気分から壮観すると、室伏さんの件は、本当に残念です。
 五輪の現場でパワーを持つには、五輪哲学を学び、
五輪運動に貢献するしかない。
 そう思いました。
   
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  考?ご期待
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 次号はvol.287です。  

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