vol.300 IOC新会長の発言 ~五輪憲章を哲学する その3~

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 IOC新会長の発言
 ~五輪憲章を哲学する その3~
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 去る11月20日、IOC会長として初の来日をしたトマス・バ
ッハは、衝撃的な日本デビューを飾った。共同通信社と読売新聞の
単独インタビューに応えて、「東京五輪での野球とソフトボールの
実施競技入りの可能性」について肯定的な発言をしたのである。

 その後の共同記者会見でも実施競技については、個人的には柔軟
でありたいとした。このニュースは日本の大新聞でも大歓迎で迎え
られた。しかし、耳障りの良い言葉に真実はない。と私には思える。

 「五輪憲章では、7年前に実施競技を決めることになっているので
これから野球とソフトボールを入れるのは難しいのではないですか?」
との質問に「五輪憲章を変えればいい」とバッハが答えたという。

 これは五輪憲章を哲学する立場からはとても重大な発言である。

 オリンピックチャーター(五輪憲章)は、その第一章で「オリン
ピック・ムーブメントとその活動」を規定しているが、その第一項
において、「オリンピック・ムーブメントの構成と全般組織」につ
いて、最初に「最高機関であるIOC のもとで、オリンピック・ムー
ブメントは、オリンピック憲章を指導原理とすることに同意する各
種組織、選手、その他の人々を統轄する」としている。

 オリンピック運動を進める最高機関としてIOCがあるが、オリ
ンピック憲章を指導原理と賛同した団体、個人がオリンピック運動
の一員となることを示している。

 五輪憲章は、オリンピック運動を支える根幹であり、オリンピッ
ク運動の一員(オリンピックファミリー)にとって、一国を統括す
る憲法に匹敵する。憲法を変えることは一大事であり、変えるとす
れば、少なくともIOCの議論が必要である。バッハが語った「五
輪憲章を変えればいい、私は法務委員長を長く務め、五輪改正につ
いては熟知している」というのは、五輪憲章を会長の意志で変える
ことも吝かではないというようなもので、かなりの暴言と言える。

 バッハが会長となったスピーチで、「私はオーケストラの指揮者
に過ぎない」と言ったことを日本のマスコミは、好意的に捉え、サ
マランチ元会長のような絶対体制ではない、民主的な運営をする新
会長としたが、実はこの言葉、サマランチがその独裁性を批判され
た時に弁明した言葉と同じである。

 すなわち、バッハはサマランチ体制の復古、もしくはそれ以上の
独裁体制を狙っているように思う。あえてサマランチ前会長の言葉
を持ち出したのは、そういう意思表明と見ていた。

 今回、東京五輪でソフトボール、野球を実施競技として追加する
ことができる可能性を語ったのは、ともかく、そのために憲章改正
がいとも容易く実現できるとしたのは、そういう意志の表れであろ
うと思うからである。

 しかしながら、現実は厳しいだろう。

 実際、共同記者会見でのバッハの言葉は、Personally I am open

to more flexibility in the program for the Olympic games,"
Bach said in response to a question at the start of a news
conference in Tokyo. "But we must see what my colleagues are
thinking about this."

 それを例えば、MSN産経ニュースでは下記のように紹介している。

 国際オリンピック委員会(IOC)のバッハ会長は20日、東京
都内で記者会見し、2020年東京五輪で野球・ソフトボールが実
施競技入りする可能性について、「個人的には(実施競技数に)柔
軟性を持たせていいと思うが、ほかのIOC委員の考え方にもよる」
とし、IOC内で議論を重ねる必要性を説いた。

 英語のニュアンスでは、BUT以下の文章が重要である。「私の仲間
たちがどう考えるかを見なければならない」

 私の思考はこうである。「東京がソフト野球の参入を望んでいる
は知っている。私自身はそれについてオープンだ。五輪実施競技に
は柔軟に対応してもいいと思っている。「しかし」みんなの意見を聞
かねばね」ということだと考える。

 その意味で、ソフトボール、野球参入の可能性への言及は、外交
辞令。日本最初の会見で、竹田、猪瀬に恥をかかせるわけにはいか
ない。

 オリンピック憲章がオリンピック運動を統括する原理であること
を知っていれば、バッハの外交辞令に踊ることはないだろう。バッ
ハの独裁体制への懸念以上に、そのことに無頓着なマスコミが私は
心配である。

2013年11月25日  

                        明日香 羊         
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編集好奇
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 ジャーナリストの知人から電話があり、「トマス・バッハの会見
をどう思うか?」と問われ、一瞬、裏があると思いました。しかし
冷静に文脈を辿っていくと、外交辞令の一言が浮かびました。
 日本にとって人気のスポーツが東京五輪で行われることは嬉しい
ことでしょう。
 しかし、五輪運動全体から考えれば、既に実施競技が決定されて
いるにもかかわらず、その後も恣意的に実施競技を追加できるとし
たら、憲章の権威が薄れます。そうなった場合、五輪運動自身がた
だの国際総合競技大会になってしまうのではないでしょうか?

 皆様のスポーツ思考に期待します。

 明日の産経新聞のコラム「オリンピズム」に小生のコメントが掲
載されます。ご覧ください。

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  考?ご期待
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