vol.301 国別メダル獲得数一覧はオリンピズムに反する

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 国別メダル獲得数一覧はオリンピズムに反する
 ~五輪憲章を哲学する その4~
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 JOC橋本聖子選手強化本部長が、2020年東京五輪の日本選
手団メダル獲得目標を金メダル30個としたとの情報が入ってきた。
それを聞いて「またか?」と思ったのは私だけのようだ。

 スポーツマスコミもジャーナリズムも日本の選手強化責任者とし
て当然の声明と見ている。30は無理だろうとか、数の分析を始め
るのが関の山だ。

 古くから五輪選手団を派遣するたびに、JOCを代表する人々が
記者団を前に「今回は、金メダル〇〇個を目指します」などと言っ
てきた。その目標を遥かに果たせなかったとしても責任を取ったも
のは誰もいない。

 もともと五輪運動を普及すべきJOCの選手を育成する責任者が
言うべきことは、「金メダルを取れ!」ということではなく、日本
を代表する五輪選手を育てること、五輪運動の頂点であるオリンピ
ック競技大会に参加して平和運動を支える選手を育てることのはず
だ。

 橋本聖子とは1988年カルガリ冬季五輪以来、そのアスレティ
ズムを尊敬し、選手団本部として出来る限りのサポートをしてきた
身としてはとても寂しい発言だった。

 その橋本が政治家となり、橋本龍太郎政権時に、スポーツ振興策
を提言するように言われ、私に相談があった時のことを思い出した。
私は彼女のために、数十枚の論文を書き、贈呈した。そこに書かれ
た内容を簡潔すれば、「選手強化は、メダル獲得のためにあらず、
五輪運動のためにあるべし。その結果が、本当の選手強化に繋がる」
という主旨のものだった。

 彼女の頂点に向かう努力は、まさに五輪運動の象徴であった。カ
ルガリーではスピードスケート全種目出場を果たしたが、選手団本
部前のエアロバイクのトレーニングを毎夜欠かすことはなかった。
その年の夏、ソウル五輪に自転車種目の代表で出場し、夏冬の五輪
出場選手となったのである。そしてさらに1992年のアルベール
ビル冬季五輪での銅メダル獲得まで、その鍛錬の日々はオリンピズ
ムの鏡と言っても過言ではなかろう。

 しかし、多くのオリンピアンがそうであるように、オリンピアン
であることの哲学を学ぶ機会が、彼女にもなかったのである。橋本
が選手強化の頂点に立った今こそ、選手強化本部は、メダル獲得を
目標とする姿勢を改革すべきだろう。

 オリンピック憲章第57条は 入賞者名簿について、「IOC とOCOG
は、いかなる国別の世界ランキング表も作成してはならない」とし
ている。すなわち、オリンピックの栄誉は、国の栄誉ではなく、ア
スリートの栄誉であるということなのだ。オリンピズムの平和構築
の仕掛けは、さまざまなところにあるが、この国別メダル獲得数の
否定もナショナリズムへの否定形である。

 にもかかわらず、常識は、国別のメダル獲得数を求める。オリン
ピックが始まれば、各紙は当然のごとくこの表を一面に掲げる。そ
ればかりか、オリンピズムの日本国普及責任当局の岸記念体育会館
に、日本が獲得したメダル数が張り出されるのだ。

 私が敬愛するベテラン記者さえも、過去の選手団のメダル獲得数
一覧を調べようとして、IOCのウエブサイトを探索し、見つから
ず、私に電話をよこした。

 「IOCには国別メダル数のリストはありませんよ。オリンピズ
ムは競技結果の栄誉は選手のものであって、国のものでないことを
述べていますから」

 一方で、各国NOCは自国のメダル獲得数に拘り続けるだろう。
五輪憲章もNOCが世界ランキング表を作成するなとは言っていな
い。ここに五輪がただの理想主義でない仕掛けがある。国威という
縦軸と世界平和という横軸。そこにオリンピズムの磁場が描かれる。

 だからこそ忘れてはいけない。国別メダル獲得数一覧は、五輪憲
章の精神と相容れないことを。選手時代にそのアスレティズムによ
てオリンピズムを表現してきた橋本聖子には、政治家としても五輪
の精神を伝える人であってもらいたい。

                         (敬称略)

2013年12月6日  

                        明日香 羊         
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                                  ────────<・・

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編集好奇
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 五輪選手団本部に掲げられる大きな模造紙。そこに金、銀、銅、
入賞者の名前が書き込まれていく。それをするのが強化担当の大き
な仕事だった。
 1982年インドのアジア大会。それまでアジアの盟主と君臨し
てきた日本選手団は、その地位を中国から守れるか注目されていた。
 ニューデリー大学日本語学科の優秀なインド人コンパニオンたち
が毎朝本部を訪れる。
 「日本人はインドに金メダルを取りにきたんですね。スポーツを
通じた文化交流に来られたのではないのですね」
 この言葉が今も胸の奥にある。

 皆様のスポーツ思考に期待します。

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  考?ご期待
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