十和田ホテルの伝言 〜札幌五輪ともてなしの心〜

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十和田ホテルの伝言
〜札幌五輪ともてなしの心〜

秋田県に十和田ホテルあり。その威風堂々たる姿は和を以て洋となす
がごときである。つまり、和の様式ながら洋館のような壮大さを有し
ている。驚くべきはそもそもこのホテルがオリンピックのために造ら
れたということである。

東京2020のためではない。1940年の東京五輪のための建築である。
なぜ秋田にと思う。1940年は東京五輪だけでなく札幌冬季五輪の開催
も決まっていたのであった。国から外国人観光客向けに宿泊施設を造
る要請を受けて、秋田県知事、児玉政介が尽力した。大凶作で苦境に
あった秋田の起死回生を狙っていたという。

十和田ホテル 2021-12-10 11

残念なことに1940年の東京と札幌の五輪は幻となった。軍事政権は五
輪よりも戦争への道を選んだ。幻に終わったがホテルは秋田、青森、
岩手から選りすぐりの宮大工を80人集めて技術を競わせ見事に完成し
た。全ての部屋が違う作りになっているのも多様性の先取りのように
思える。1938年竣工、翌年に開業された。

日本三大美林のひとつ、秋田杉を惜しみなく使った玄関ホールの吹き
抜けは豪快に三階建ての天井まで。堂々と世界に誇れる建築ぶりであ
る。

客室も外国人が喜ぶであろう「和」のしつらえ。十和田湖を眺望でき
る演出である。そこには世界からの客をお迎えする心意気が感じられ
る。思えば東京2020は「おもてなし」で呼んでおいて、「おもて
なし」なく終わった。日本人の器量がかなり狭まっている気がする。

ホテル創設が秋田の窮状を救う手立てに一念発起ということだが、そ
こから世界をもてなす最上級の努力を惜しまなかった器量は計り知れ
ない。東京2020の心根には経済的大効果への野心があったが、そ
の前に本当に世界を「もてなす」気があったのか?まさにここを反省
しないと、今後の日本の国際交流はただの自己満足に終わることにな
ろう。

1940年の五輪も実はコロナ禍で世論を二分した今期五輪のように、す
さまじい決行論、返上論の激突があった。日中戦争の狂奔する軍部の
介入もあり、返上を閣議決定する。返上せず開催を選択していれば、
日中戦争の泥沼に突き進むことなく違う方向の外交が見えたのではな
いか?と思うのは甘いだろうか?私が東京2020の開催を強弁した
背景には東京1940を返上せざるを得なかった先達たちの悔恨の思
いがあった。

1936年ヒトラーの政権下で行われたベルリン五輪は、後代、ナチズム
の五輪と批判的に論じられることが多いが、実はその中身は第一次世
界大戦で中止を余儀なくされたベルリン五輪1916の継承であり、
その精神は古代五輪を近代に復興させる数々の平和理念に基づいてい
た。もし、東京1940が挙行されていれば、その精神は引き継がれ、
世界大戦への回避に繋がったのではないか。

札幌1940を控え、初のアジアでのオリンピックにやってくる外国
からの人々を両手を広げて迎え入れる。十和田ホテルには今もなお、
その佇まいがある。札幌2030を成功させたいのであれば、その心
を学ぶべきである。

(敬称略)

2021年12月10日

明日香 羊

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編集好奇
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「外交的ボイコット」とは奇妙な言葉である。北京五輪参加選手は、
競う中で、外交を繰り広げる。政治家は外交を諦めて、競う。誠に
世の中は面白い。

春日良一

本年初頭に執筆した記事が好評というので、ご覧ください。↓
【Daiamond Online】
東京2020はなぜ中止にならないか?五輪生存をかけたIOCの「信念」
https://diamond.jp/articles/-/257564

【Forbes Japan】
「命と引き換えにするほどの価値があるのか議論すべき時」
https://forbesjapan.com/articles/detail/39575

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考?ご期待
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次号はvol.441です。

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「実践五輪批判〜20年東京五輪これでいいのか?〜」
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「純粋五輪批判」
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哲学者カントの純粋理性批判と実践理性批判から拝借
「実践」では実際に五輪がオリンピズムを実現しているのかを批判
「純粋」では大河を触媒にオリンピズムの本当を解説

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