トランプの豪速球は失投か? 〜トランスジェンダー選手の女子競技参加禁止令〜

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トランプの豪速球は失投か?
〜トランスジェンダー選手の女子競技参加禁止令〜

大統領就任以来、大統領令署名に専心しているトランプの様子は宿題ドリルを一生懸命日々クリアしている就学前幼児の営みのようである。「僕はちゃんと仕事しているんだ」と頑張っているということであろうが、2月5日に署名したトランスジェンダー選手の女子競技参加を禁止する大統領令は問題である。これを報道するメディアの扱い方も問題である。そのことに鈍感力を発揮しているオリンピック関係者も問題である。

何が問題かと言えば、これはトランプが決める問題ではないからだ。スポーツの「自律」を犯すことになるからだ。
スポーツはスポーツのためにスポーツ自身がスポーツのルールを決めて運営すると言うのが大原則である。これを平気に踏み躙っていることが無神経であり、それに気付かぬメディアは不誠実であり、それに立ち向かわないオリンピック関係者は無責任である。

しかもトランプはご丁寧に「2028年のロサンゼルス五輪にトランスジェンダーの選手を参加させないように国際オリンピック委員会(IOC)に(現在の規定を)変更するよう」に要求したのである。スポーツの「自律」をオリンピズムの根本原則で規定するIOCに対してである。

大統領 2025-02-16 18

オリンピック憲章が主張するスポーツの「自律」はどんな政治的圧力にも負けずにスポーツの自治を守ることであり、これが故にスポーツで世界の平和に貢献できるのである。オリンピック開催期間、オリンピック開催地はオリンピックの法律が支配しなければならない。ヒトラー政権下で1936年に開催されたガルミッシュ・パルテンキルヘン冬季五輪の会場から「ユダヤ人入るべからず」の看板をナチスに撤去させたのはIOCである。ヒトラーが「ここはドイツだからドイツのルールで」と言ったところで、会長ラツールは「オリンピック開催地はオリンピックのルールが支配する。でなければオリンピックはそこにない」と言い切った。

トランスジェンダーの選手の女性競技参加は、IOCが慎重に検討してきた課題であり、いまだに研究と議論を続けている問題である。結論を出すのはスポーツでなければならない。トランプはトランスジェンダーの選手が女子競技に参加するために米国に入国する場合の査証審査厳格化も国土安全保障省に指示したというが、オリンピックではIOCが認証した全ての選手役員に開催国は円滑な入国と滞在の権利を与えなければならない。選手の五輪参加資格を決めるのはIOCである。そのことをトランプにIOCそしてオリンピック関係者は言い切らなければならない。

IOCはこれまで人権の観点からトランスジェンダー選手の参加については寛容な対応をしてきたと言える。競技の公平性と人権の擁護のバランスを賢察して基準を策定、科学的研究も進めつつ最終的判断はそれぞれの競技を統括する国際競技連盟に委ねている。国連と築いた堅固な協力関係を大事にしてきたバッハ体制が終焉を迎えんとするこのタイミングで優柔不断に見えるIOCにトランプは豪速球を投げてきたのだ。

今回の大統領令はIOCの方針と衝突し、開催国との間に深刻な対立が生じる可能性があるだろう。IOCが何らかの妥協策を探る可能性は残るものの、トランプ政権の方針に安易に同意するとは考えにくい。妥協案としてテストステロンの基準を厳格化するなど特定の条件下での参加許可などがある。

一方、トランプにとってもロサンゼルス五輪は国際的に重要なイベントであり、完全な開催拒否やIOCとの全面対立は避けたいのが本音だろう。そのため、「オリンピックは例外としてIOCの基準を適用する」といった形で折り合いをつける可能性がある。
今回の衝撃的なトランスジェンダー選手の女子競技からの排除も、最初は高い関税を提示して相手国からの譲歩を引き出す戦術を使っているのかもしれない。

しかし、最悪の場合、開催地変更の可能性もなくはない。米国がIOCのトランスジェンダーの選手の女子競技参加方針を完全に無視し、当該選手の参加を一切認めないとなると、人権を擁護する立場のIOC委員が反発するだろうし、他国や人権団体が抗議し、開催地変更を求める声が上がる可能性もあるだろう。

 トランプにとっては納得の全力投球だったが、その一投が大きな波紋を呼ぶ可能性がある。いずれにしろこの豪速球をIOCは打ち返さなければならない。スポーツの「自律」を守るために。どのように打ち返すか。新IOC会長の「志」の見せ所である。

(敬称略)

2025年2月16日

明日香 羊
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編集好奇
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トランスジェンダーの選手の女子競技参加については、この一週間考え続けました。なかなか難問でした。科学的研究を続けてもらうしかないと思いますが、新IOC会長には決心してもらわなければならいと思います。その視点から日刊ゲンダイ連載「IOC会長選 7候補マニフェスト完全採点」明日の発売号で論じています。ご購読いただければ幸いです。
https://www.nikkan-gendai.com/articles/columns/5241

「2024パリ大会 徹底、実践五輪批判」日刊ゲンダイ連載、全18話
https://www.nikkan-gendai.com/articles/columns/4728/495

Forbes Japanで開会式について五輪アナリスト春日良一が分析。詩的スポーツ思考。
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