天皇陛下のスポーツ外交 〜バッハの叙勲そして日本との和解〜

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天皇陛下のスポーツ外交
〜バッハの叙勲そして日本との和解〜

国際オリンピック委員会(IOC)バッハ会長が先週日本に来ていたことを知っている人はどれだけいるだろうか?

「IOCのトーマス・バッハ会長が9日、皇居で行われた旭日大綬章の親授式に出席した。その後、日本オリンピック委員会(JOC)を訪問し2021年に東京五輪・パラリンピックを開催できたことに感謝。スポーツに世界を一つにまとめられる力があることを再認識したとし、『全ての日本の人々は永遠に誇ることができるだろう』と語った。また、8日はけがで療養しているJOCの山下泰裕会長を見舞い面会したことも明かした」(2025年5月10日5時00分、朝日新聞伝)

バッハ会長叙勲 2025-05-16 23

コロナ禍で開催された2020東京五輪(2021年開催)の時には、バッハが日本に来ることを否定的に受け止める報道ばかりが目立ったことを想起する。橋下徹などは「オリンピック貴族と言われている委員とかオリンピックファミリー、入国を認めなきゃいいんですよ。出入国管理法の5条の14号のテロ規定使ってね」とあるテレビ番組で堂々と主張していた。

五輪を主催する当人を入国拒否するとは暴論もいいところだが、橋本が代表する日本の識者たちの五輪音痴ぶりは凄まじい。オリンピックファミリーに選手が含まれていることなど思い知る由もなかったのだろう。これが電波に乗ってもスルーされるほど、東京五輪開催直前の日本の空気は澱んでいた。

そんな中、当時、西村宮内庁長官が「陛下は現下の新型コロナウィルスの感染状況を大変心配されている。国民の間に不安の声がある中で、ご自身が名誉総裁をお務めになる大会の開催が感染拡大に繋がらないか、ご懸念、ご心配であると拝察する」と述べ巷間騒ぐ事態となった。それは天皇陛下が日本国民の気持ちに寄り添っていることを表明するためだったようだが、この時、陛下のご憂慮に対して政府は責任ある説明をするべきであったし、組織委も大会の進捗状況とコロナの対策について申し述べるべきであっただろう。その中で五輪と国民の和解が成り立つチャンスがあったはずだ。しかし五輪開催について責任を持って主張する人はいなかった。

私は東京五輪1964の時の組織委会長安川第五郎の手記にたまたま出会い、彼が昭和天皇に呼ばれて進捗状況を説明する場面で、天皇の鋭い指摘にたじたじになったことを知った。天皇の五輪理解があまりにも深かったのである。昭和天皇の心を継承しているであろう今上天皇が五輪に抱く思いも決して軽いものではないと私は信じていた。五輪を否定せずに国民に寄り添うことができるのは天皇しかいなかったのではないか。

それは1992年のバルセロナ五輪の時に、時の皇太子殿下(今上天皇)が選手村を訪れ日本選手団を激励することを強く望まれ、その実現に私自身が奔走した経験の中で直観したものでもある。殿下が選手村に来ると言うことはメディアも含め300人以上が同時に選手村のセキュリティを通ると言うことであり、組織委との周到な交渉が必要であったのだ。外務省が1年がかりで取り組んでも埒が開かず、五輪開催直前に私は宮内庁に呼ばれ、特命を受けた。そして、実現に漕ぎつけた。当日、直前に火災が起きるなどのアクシデントを乗り越えて、信頼関係を築いていた組織委の協力を得て、私はスタッフ数名とこの一大行事?!を取り仕切ることができた。殿下の選手との微笑ましいやり取りが実現した。

皇太子 バルセロナ五輪

バルセロナ五輪が終了した秋、一枚の招待状が届いた。殿下主催のお茶会に呼ばれたのだ。
私のような一介の職員にまで心遣いをされる方が、バッハがコロナ禍で世界中の選手を励まし、組織委を応援し、努力している姿に心留めないはずがないと私は思っていた。故に、宮内庁の発表の裏にある事情も推察された。

昭和天皇は安川組織委会長に投げかけた質問の中に「何千という海外から来る選手に愉快な生活を送ってもらうだけのサービスを心配しているか」がある。組織委がホテル協会に丸投げしていることを安川は正直に話したが、天皇自身がオリンピックファミリーをもてなすことに心を配られていた事実が驚きである。敷衍すれば、コロナ禍でのリスクを負いつつも五輪参加者を受け入れるための必死の努力を今上天皇は理解されていたのだろうと思う。

バッハに与えられて勲章は旭日大綬章であった。

バッハはJOCを訪れ、職員たちに歓迎され、東京五輪2020について「誰も予想することができなかった状況下で開催することができた。日本の皆様方のサポートが無ければ可能ではなかった」と感謝の意を表した。花束を渡したのはJOCエリートアカデミーの野元麻央選手(フェンシング)だった。

「無観客にはなってしまったが、選手たちは特別な形でつながりを示した。一致団結するという力強いメッセージを世界に発信し、それは今も共感されている。全ての日本の人々は、このユニークな成果と成功を永遠に誇ることができるだろう」

バッハが残した言葉は五輪と日本人の和解を示すものとなった。天皇がその橋渡しをされたのである。

(敬称略)

2025年5月16日

明日香 羊
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編集好奇
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それにしてもバッハ来日が大きなニュースにならない日本は五輪発展途上国かもしれない。JOCのHPにも全く記載がない。ニュースは選手の活躍だけだ。これではスポーツがスポーツ内存在として終わるしかない。

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IOC会長選挙の結果についてゲンダイでも論じました。
https://www.nikkan-gendai.com/articles/view/sports/369469
コベントリーの勝利にプーチンが反応しました。融和外交に入っていくか?

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コメント

  • 君に勲章か金メダルを 差し上げますよ

    全く同感! 日本人にはやっぱりまだ、根本からものごとを考える力と
    主体的に行為のなりゆきを観て回顧し反省する力のようなものが育っていないね。
    天皇一家にくらべてはるかに民度が低く、言語力も倫理力もない。

    自分も、どうしてバッハの来日→叙勲がこの程度の扱いなのか?とは思っていたけど、
    もはや呆れてしまって詩にも書かなかった。それではいけないね。

    それにしてもバルセロナ五輪の時、貴兄は良い仕事をされましたね。
    今日のバッハ叙勲につながる皇室への橋渡しとして、私の方から勲章か金メダルを
    差し上げますよ。



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