アジアの祈りとスポーツ外交 〜愛知・名古屋アジア競技大会の意義〜

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アジアの祈りとスポーツ外交
〜愛知・名古屋アジア競技大会の意義〜

EXPO2025大阪・関西万博はそれでも衆目の及ぶところだろうが、愛知・名古屋アジア大会は忘却の彼方にあるように思える。忘却と言っても開催が来年のビッグイベントである。すでに開会まで500日を切っているこの国際的行事の日本開催は1994年の広島以来、32年ぶりの開催となるというのに日本では蚊帳の外の感がある。

そもそもオリンピック競技大会は取り上げてもアジア競技大会(アジア大会)は重要視されない流れは長い歴史を持っている。四年ごとの五輪開催の間に四年ごとに行われるアジア大会はかつてNHKが放送していた記憶がある。最近ではマーケティングの視点から放映権を得るべきイベントとしての扱いだが、商業的価値がなくとも大会開催自身に意義があるという観点からNHKは「頑張って」放送していたのである。

アジア競技大会の意義とは何か?それが始まったそのまさに原点が重要である。1951年、インドはニューデリーで開催された第一回大会は、第二次世界大戦で分断されたアジアの人々の心を繋げようという根本理念があった。

第一回アジア競技大会 2025-05-31 17

国際スポーツ界の舞台から疎外されていた敗戦国ニッポンがこの大会に呼ばれるまでの紆余曲折はそれだけで一冊の書物になるが、多くの反対のある中、時のネール首相をはじめとするインドのスポーツ関係者の尽力で日本の参加が認められた。

日本はこれをきっかけに国際スポーツ界への復帰ができたのである。まさに日本スポーツ界の恩人であるアジア競技大会の精神。まさにスポーツを通じた国際平和への貢献といえよう。日本スポーツ界はまさか招待されると思っていなかったが、戦争の傷をスポーツ交流で癒し、他国との友好を育みたいという気持ちが渦巻いていたので、招待の打診が届くやいなや参加に向けて必死になったのである。

そしていざ参加する代表選手団のモットーは「勝利よりも友好」であり、フェアプレーに徹した。そして選手団解団式で浅野圴一団長の語ったように日本選手団は「…競技によって(の)多くの輝かしいメダル…よりも、技を競い、相語り、相携えて…『友情』という心の金メダルを得た」のであった。

愛知・名古屋アジア大会が忘れてはならないのがこの二つの点にある。一つはアジアへの恩義。そしてもう一つは友好である。しかし彼らは恐らく忘れている。それを痛感したのが、一年前だろうか?予算の関係で選手村を諦めると名古屋市長が発表した時だ。アジア大会の最も重要な部分を捨てようとしたのである。

選手の友好関係を培うのは、競技会場だけでなく、選手村での日常生活の共有である。

選手村は国際オリンピック委員会(IOC)バッハ会長が特にその重要性をクローズアップさせたが、世界中の選手が全ての壁を乗り越えて大会開催期間を共に過ごす特別な場である。とはいえ、オリンピックは世界一を決める場でもあり、そこに焦点を絞る選手にとっては競技力志向になることは避けられない。しかしアジア大会では世界一を決める競技種目は限られたものであり、まさに選手村は多様な文化、民族、国々を相互に体験する場になるのである。

五輪でもアジア大会でも選手村には様々な施設が設けられる。食堂はもちろんだが、バーバー、ヘアーサロン、ゲームセンター、クラブ(私の時代はディスコ)、宗教施設(仏教、イスラム教、クリスト教)、トレーニング施設などなど、あらゆる時空で交流が可能になる。

私が思い出すシーンがある。1986年のソウルアジア大会の時である。選手村内のディスコの前を先輩の本部員たちと通りがかりに覗いたら、何人かの選手役員がそれぞれダンスを楽しんでいた。そのうち音楽がアップテンポのものになった頃、みんなが輪になって踊り出した。我々もその輪に誘われるままに入っていった。ディスコを覗いていく選手たちがどんどんその輪に入ってきた。気がつけば、モンゴルの選手、インドの選手、マレーシアの選手、いろいろいる。みんなが手に手を取り合って輪に入ってきた。やがてそれはとても大きな輪になった。若かりし私は、この輪がやがてアジア中をつなぐ輪になるような気がした。

選手村はアジア大会にとって、もしその友好の理念を大事にしようというのならば、なくてはならないものなのである。

組織委は名古屋港に停泊するクルーズ船をチャーターして4600人の選手と役員を収容し、2400人の選手・役員をガーデンふ頭のコンテナに宿泊させようとしている。アジアオリンピック評議会(OCA)調整委員会のテイヤブ・イクラム委員長は「これまでの進展に非常に満足している」と妥協しているが、果たしてこの二つが選手村の役割を果たすことができるだろうか。

アジアへの恩義を果たす好機が愛知・名古屋アジア大会にあることを想起すべきだろう。今、分断の進む世界状況の中で、このアジア大会がアジアの友情を育み共生のロールモデルを生み出すことができるチャンスである。

それほどの使命を持っている大会であることを思えば、この大会の世間への伝え方も変わってくるだろう。伝え方が変われば、人々の関心も高まるだろう。そうなれば、資金調達もボランティア募集も今とは違った展開になってくるだろう。

アジア大会には「誰とでも仲良くしたい」というアジアの祈りと「スポーツによって人と人、国と国の仲良しを育む」というスポーツ外交が集積されている。

愛知・名古屋アジア大会が少なくともそれを紐解くものであってほしい。

(敬称略)

2025年5月31日

明日香 羊
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編集好奇
▲▽▲▽▲
1994年広島アジア競技大会の時には追加競技で大いにもめた。
広島側は増やしたくないし、OCAは増やしたい。
仲介が私の役割だった。結果、セパタクロー、カバデイが追加になるのだが、
この二つは競技場が小さいだけに組織委側の負担はまだ少なかった。
しかし、名古屋ではクリケットが入る。
これは大変だろう。直径約120メー トルの芝生がいる。

Noteで2019年の大河ドラマ「いだてん オリンムピック噺」からオリンピズムを学ぶ連載がスタート。最新号は、大河「いだてん」考 第六話 国と個
https://note.com/olympism/n/n01a9af3c981c

noteでスポーツ思考の人気記事をマガジンとしてまとめました↓
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noteで私の五輪招致秘話「ショートホープ」連載を始めました。好評です。
第一話
https://note.com/olympism/n/n10a02cedaa85
第七話「アン王女の部屋で」まで来ています。
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noteで「春日良一の哲学するスポーツ」YouTubeChannel版をまとめました↓
https://note.com/olympism/m/m584856513250

IOC会長選 7候補マニフェスト完全採点
https://www.nikkan-gendai.com/articles/columns/5241

IOC会長選挙の結果についてゲンダイでも論じました。
https://www.nikkan-gendai.com/articles/view/sports/369469
コベントリーの勝利にプーチンが反応しました。融和外交に入っていくか?

「2024パリ大会 徹底、実践五輪批判」日刊ゲンダイ連載、全18話
https://www.nikkan-gendai.com/articles/columns/4728/495

Forbes Japanで開会式について五輪アナリスト春日良一が分析。詩的スポーツ思考。
https://forbesjapan.com/articles/detail/72709

YouTube Channel「春日良一の哲学するスポーツ」は下記から
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オリンピックやスポーツを考えるヒントにどうぞ!

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そもそもオリンピック競技大会は取り上げてもアジア競技大会(アジア大会)は重要視されない流れは長い歴史を持っている。四年ごとの五輪開催の間に四年ごとに行われるアジア大会はかつてNHKが放送していた記憶がある。最近ではマーケティングの視点から放映権を得るべきイベントとしての扱いだが、商業的価値がなくとも大会開催自身に意義があるという観点からNHKは「頑張って」放送していたのである。

アジア競技大会の意義とは何か?それが始まったそのまさに原点が重要である。1951年、インドはニューデリーで開催された第一回大会は、第二次世界大戦で分断されたアジアの人々の心を繋げようという根本理念があった。

国際スポーツ界の舞台から疎外されていた敗戦国ニッポンがこの大会に呼ばれるまでの紆余曲折はそれだけで一冊の書物になるが、多くの反対のある中、時のネール首相をはじめとするインドのスポーツ関係者の尽力で日本の参加が認められた。

日本はこれをきっかけに国際スポーツ界への復帰ができたのである。まさに日本スポーツ界の恩人であるアジア競技大会の精神。まさにスポーツを通じた国際平和への貢献といえよう。日本スポーツ界はまさか招待されると思っていなかったが、戦争の傷をスポーツ交流で癒し、他国との友好を育みたいという気持ちが渦巻いていたので、招待の打診が届くやいなや参加に向けて必死になったのである。

そしていざ参加する代表選手団のモットーは「勝利よりも友好」であり、フェアプレーに徹した。そして選手団解団式で浅野均一団長の語ったように日本選手団は「…競技によって(の)多くの輝かしいメダル…よりも、技を競い、相語り、相携えて…『友情』という心の金メダルを得た」のであった。

愛知・名古屋アジア大会が忘れてはならないのがこの二つの点にある。一つはアジアへの恩義。そしてもう一つは友好である。しかし彼らは恐らく忘れている。それを痛感したのが、一年前だろうか?予算の関係で選手村を諦めると名古屋市長が発表した時だ。アジア大会の最も重要な部分を捨てようとしたのである。

選手の友好関係を培うのは、競技会場だけでなく、選手村での日常生活の共有である。

選手村は国際オリンピック委員会(IOC)バッハ会長が特にその重要性をクローズアップさせたが、世界中の選手が全ての壁を乗り越えて大会開催期間を共に過ごす特別な場である。とはいえ、オリンピックは世界一を決める場でもあり、そこに焦点を絞る選手にとっては競技力志向になることは避けられない。しかしアジア大会では世界一を決める競技種目は限られたものであり、まさに選手村は多様な文化、民族、国々を相互に体験する場になるのである。

五輪でもアジア大会でも選手村には様々な施設が設けられる。食堂はもちろんだが、バーバー、ヘアーサロン、ゲームセンター、クラブ(私の時代はディスコ)、宗教施設(仏教、イスラム教、クリスト教)、トレーニング施設などなど、あらゆる時空で交流が可能になる。

私が思い出すシーンがある。1986年のソウルアジア大会の時である。選手村内のディスコの前を先輩の本部員たちと通りがかりに覗いたら、何人かの選手役員がそれぞれダンスを楽しんでいた。そのうち音楽がアップテンポのものになった頃、みんなが輪になって踊り出した。我々もその輪に誘われるままに入っていった。ディスコを覗いていく選手たちがどんどんその輪に入ってきた。気がつけば、モンゴルの選手、インドの選手、マレーシアの選手、いろいろいる。みんなが手に手を取り合って輪に入ってきた。やがてそれはとても大きな輪になった。若かりし私は、この輪がやがてアジア中をつなぐ輪になるような気がした。

選手村はアジア大会にとって、もしその友好の理念を大事にしようというのならば、なくてはならないものなのである。

組織委は名古屋港に停泊するクルーズ船をチャーターして4600人の選手と役員を収容し、2400人の選手・役員をガーデンふ頭のコンテナに宿泊させようとしている。アジアオリンピック評議会(OCA)調整委員会のテイヤブ・イクラム委員長は「これまでの進展に非常に満足している」と妥協しているが、果たしてこの二つが選手村の役割を果たすことができるだろうか。

アジアへの恩義を果たす好機が愛知・名古屋アジア大会にあることを想起すべきだろう。今、分断の進む世界状況の中で、このアジア大会がアジアの友情を育み共生のロールモデルを生み出すことができるチャンスである。

それほどの使命を持っている大会であることを思えば、この大会の世間への伝え方も変わってくるだろう。伝え方が変われば、人々の関心も高まるだろう。そうなれば、資金調達もボランティア募集も今とは違った展開になってくるだろう。

アジア大会には「誰とでも仲良くしたい」というアジアの祈りと「スポーツによって人と人、国と国の仲良しを育む」というスポーツ外交が集積されている。

愛知・名古屋アジア大会が少なくともそれを紐解くものであってほしい。

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2025年5月31日

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1994年広島アジア競技大会の時には追加競技で大いにもめた。
広島側は増やしたくないし、OCAは増やしたい。
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しかし、名古屋ではクリケットが入る。
これは大変だろう。直径約120メー トルの芝生がいる。

Noteで2019年の大河ドラマ「いだてん オリンムピック噺」からオリンピズムを学ぶ連載がスタート。最新号は、大河「いだてん」考 第六話 国と個
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IOC会長選 7候補マニフェスト完全採点
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IOC会長選挙の結果についてゲンダイでも論じました。
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Forbes Japanで開会式について五輪アナリスト春日良一が分析。詩的スポーツ思考。
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