ロサンゼルス五輪の心配事 〜第50条の聖域を崩す命名権〜
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ロサンゼルス五輪の心配事
〜第50条の聖域を崩す命名権〜
昨年、世界陸連会長セバスチャン・コーが「パリ五輪金メダリストに5万ドル」の爆弾発言をしたのが遠い昔に思えるが、これがオリンピックの歴史にとって、その理念を根本から揺るがすものであることを論じたのはこのスポーツ思考と日刊ゲンダイの私のコラムだけであった。選手がそのパフォーマンスによって対価を得るのは当然と思われている昨今では、スポーツメディア各位のオリンピズム脳が麻痺しているのかも知れない。
その後、いくつかの新聞社やメディアの取材を受けたが、特に若い記者たちはコーの言い分が選手にとって良きことであるとの捉え方であった。少なくとも金銭的支えが選手には必要なのではないか?さらにはもっと賞金を出すべきだという御仁もいた。一方で私の喋ったことを自分のコラムにした作家もいた。そして私は思った。オリンピズムを「荒野に叫ぶ者」であり続けなければと。
金銭のためではなく純粋にスポーツを愛するが故にスポーツをするという思想はオリンピックの理念を支える礎であった。それをアマチュアリズムとして主張し続けた国際オリンピック委員会(IOC)は、世界の資本主義化の流れの中で政治を超越するための資金繰りをオリンピックマーケティングという形で始めた。オリンピックからアマチュアという言葉が消え、最高のアスリートが集うべきオリンピックにはプロフェッショナルも参加することができるようになる。それをメディアは「五輪のプロ化」と批判したが、しかし、IOCは最後の砦は守った。
それは五輪に参加し、競技に出場することで金銭的対価を得てはならないという一線である。高額報酬を受け取っているプロの選手が五輪に参加するのは五輪の理念への賛同の表明でなければならなかった。それによって五輪は何のための大会なのかを示すことができたからだ。
この一線を守る限りにおいて五輪の資本主義化がいくら進んだとしても、オリンピックの理念は崩壊することはない。しかし、コーはそれを打ち破ったのである。追随する国際競技連盟(IF)がほとんどいないことが救いだったが今度はロサンゼルス五輪2028にオリンピズムの危機が迫っている。
ロサンゼルス2028組織委(LA28)は大会を「史上最も収益性の高い大会」にすることを約束している。そして、ブランドが3年後に各種競技会場に自社名を付けることができると発表したのである。
オリンピック憲章第50条に「オリンピック用地の一部とみなされるスタジアム、競技会場、その他の競技区域内とその上空はいかなる形態の広告またはその他の宣伝も許可されない。スタジアム、競技会場、またはその他の競技グラウンドでは、 商業目的の設備、
広告標示は許可されない」とある。これは五輪開催期間と開催場所は五輪理念の実現の場である特別な磁場であることを示す規定である。
五輪会場に企業の冠を被せることはこの理念を崩壊させることになる。五輪の磁石が企業の砂鉄になるということだ。東京2020の時に野球会場に東京ドームがなり得なかったのは、そこに多くのドームスポンサーの看板や広告や店舗が存在したからであり、それを全部消すだけの五輪主義が東京ドームにはなかったからである。
LA28はオリンピック史上、前例のない取り組みで、収益向上を目指すことになる。すでにコムキャストとホンダが参入を表明している。スカッシュはユニバーサル・スタジオの敷地内にあるコムキャスト・スカッシュ・センターで開催され、ホンダ・センターは伝統的な名称を維持したままアナハイムでバレーボールの会場として使用される。

IOCはこのことに公に言及していないが当然この革命的マーケティング手法を認めていることになる。思えば、1984年のロサンゼルス五輪が、民間資金だけで運営して約500億円の黒字を出した後、オリンピックマーケティングが進行し、それがオリンピック存続に繋がった。その時、サマランチ会長は五輪のシンボルを売ったが、五輪の魂だけは売らなかった。出場対価を認めないことで選手の理念を守り、第50条を守ることで全ての企業に公平を保った。
LA28会長ケイシー・ワッサーマンは「私たちは、オリンピックとパラリンピックの歴史上初の会場命名権プログラムを創設することでLA28のミッションである『完全に民間資金で賄われる大会の実現』を推進している」と言うが、彼はセバスチャンに続き、オリンピックを「滅びの門」の前に立たせる人となるであろう。
「この大会史上初の取り組みは、IOCの支援により実現した。命名権はまずTOPプログラムのメンバーであるパートナー企業に優先的に提供された。19の会場が命名権の対象となる」
五輪理念のために自らの名前を消す志ある企業家はもはや存在しないのである。
(敬称略)
2025年9月2日
明日香 羊
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編集好奇
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フットマークという足の形をエンブレムにしている会社がある。その会長だった礒部成文さんが8月逝去された。83歳であった。本業の布オムツカバー製造不振から悩みつつオムツカバーを頭に被ったら水泳帽になってそれを全国に売りに出たのが始まりで立派な会社に育てた。
経営者の大先輩として色々と学ばせていただいたが、最も彼が立派だと思っていることは「介護」である。
この言葉、老人医療用のオムツを作った時に彼が作った言葉なのである。介助と看護を合成した言葉「介護」。その特許を持っていながら、その利用については一銭も請求しないという方針を貫いた。介護ビジネスがこれほど広範に広まる中、特許料を請求していればどれだけ潤ったか分からない。
こういう心の持ち主がオリンピック運動の中心にいないのか?と通夜に参列し、彼の笑顔の遺影を見つめてしみじみと思ったのであった。
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創作大賞2025(note)に五作品を応募しました。その経緯をお読みください。
https://note.com/olympism/n/nc64126028a80
古希の旅 琴平慕情 初の小説的紀行文 必見!
https://note.com/olympism/n/n935d8b2c4f3d
橋本聖子が新会長 JOCにいま何が?(日刊ゲンダイ) 春日にしか書けない深層
https://www.nikkan-gendai.com/articles/columns/5337
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https://note.com/olympism/m/m58da6016e53d
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https://note.com/olympism/m/m584856513250
IOC会長選 7候補マニフェスト完全採点
https://www.nikkan-gendai.com/articles/columns/5241
IOC会長選挙の結果についてゲンダイでも論じました。
https://www.nikkan-gendai.com/articles/view/sports/369469
コベントリーの勝利にプーチンが反応しました。融和外交に入っていくか?
「2024パリ大会 徹底、実践五輪批判」日刊ゲンダイ連載、全18話
https://www.nikkan-gendai.com/articles/columns/4728/495
Forbes Japanで開会式について五輪アナリスト春日良一が分析。詩的スポーツ思考。
https://forbesjapan.com/articles/detail/72709
YouTube Channel「春日良一の哲学するスポーツ」は下記から
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『NOTE』でスポーツ思考
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