ミラノコルティナ冬季五輪を斬る(2) 〜金メダルが取れないわけ〜
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ミラノコルティナ冬季五輪を斬る(2)
〜金メダルが取れないわけ〜
私が不思議なのはオリンピックに出る選手が「金メダルを目指す」と言うことだ。流石に130年以上の歴史を持つオリンピックではこの言葉がそろそろ少なくなってきたが、パラリンピックでは当然の如く仄めかされる。誰もおかしいとは思わない。
でもおかしくないか?なぜ金メダルを目指すの?君の最高のパフォーマンスを目指すのではないのか?確かにオリンピックに出て一番になったとしても国際オリンピック委員会(IOC)が賞金をくれるわけでもない。せめて金を取って帰ろう!か?しかし金メダルは銀に金メッキという頼りなさである。
優しい眼差しで見れば「金メダルを目指す」は頂点を目指すという意思の比喩なのだろう。さてこのスポーツ思考で論じるのは「金メダルを目指す」アスリートには金メダルは来ないというテーゼである。
ミラノ・コルティナ冬季五輪の日本選手でこのテーゼを証ししてみよう。

私のあげる例は二つ。
一つはカーリング女子日本代表。フォルティウスが日本を代表した。フォルティウス?!オリンピックモットー!シティウス、アルティウス、フォルティウス、より早く、より高く、より強くのフォルティウスである。これは金メダルを取るしかない。
最大のライバル、ロコ・ソラーレを破って、代表の座を勝ち取った。スキップの吉村が意気込んで語った。「金メダルを目指します」と。ライバルが成し遂げてきた輝かしい戦歴。2018年平昌で銅メダル、2022年北京で銀メダル。そうなれば今度は金メダルが必然だろう。そこでリーダー格の吉村にとっては金メダルが絶対値となってしまった。自らは五輪初体験である。しかしチームメイトにはオリンピアン(オリンピック出場経験者)がいた。オリンピック特有と言われる何かを体験していた彼女たちの知と体を思えば、金メダルをゴールにすることがいかに大きなことか分かるチャンスがあったはずだ。
しかし吉村は金メダルをゴールにするしかなかった。金メダルに一心不乱であった。オリンピアンのチームメイトを超え、これまでの代表チームつまりオリンピアンチームを超え、目指すべきは「金メダル」でしかなかった。すると、一投一投が学びであり、一掃一掃が知識であるカーリングという競技の本流をスルーする形になってしまった。
フォルティウスが初戦から二連敗で迎えた強豪スイス戦を勝利した時、解説を務めたロコソラレーの吉田知那美が語った言葉が響いた。
「勝っても負けても無駄になる試合は一つもない。全てが今に繋がる意味になる。今日の勝利もそれまでの試合の結果であり、今日の勝利が明日に結びつく。一つ一つのプレーに意味がある」
この通りではなかったと思うが、このようなことを語っていた。この言葉が吉村の心に届いていれば「金メダル」の呪縛は解けたと思うのである。
吉村の試合後の涙が自らの闘いの本質を悟っていた気がする。
もう一人の例は、フィギュアスケート女子の坂本花織である。2022年以降、ロシアがフィギュアスケートの世界から排除されて以来、坂本はフィギュアの世界を女王のように過ごしてきた。ミラノ・コルティナ冬季五輪ではロシアからの選手が出場したが、あくまでも中立個人選手としての参加であり、フィギュア女子には一名のみ。
世界上位を独占してきたロシア勢のかつての名選手は、「今のフィギュアはレベルが違う」という意味のことを語っていた。
前回の北京冬季五輪で銅メダルを獲得できた坂本にとってみれば「金メダル」以外を目指す気はなかっただろう。
それまで自らのスケーティングの極みを求めて鍛錬を重ねてジャンプだけに頼らないフィギュアのあり方を示してきた坂本がもしその完成された姿をゴールとしていれば、そのファイナルとなる演技を楽しむことができていただろう。その結果は団体戦での活躍で見せたパフォーマンスを実現していたと思える。
フィギュア団体戦のショートとフリーの両種目を完璧に演じた坂本が個人種目で「金」に至らなかったのは、フィギュア男子でイリア・マリニンがフリーで得意の4回転ジャンプをことごとく失敗し8位となったことと連想させる。彼も団体戦でショートとフリーを完璧に演じていた。
フィギュア女子で金メダルを取ったアリサ・リュウはショートで3位もフリーでのびのびと自らの演技を楽しんでいた。それは金メダル以上にフィギュアスケートを楽しもうとしていた。彼女も団体戦ではショートのみに出場した。坂本に次いで2位だった。
いずれにしろ自らのパフォーマンスのゴールをどこに置いているか?それが「金メダル」であると結果は無情なものとなる。
ミラノ・コルティナ冬季五輪日本代表選手団は日本スポーツ史上最高の成績を残した。その理由は?テレビの取材に私は日本オリンピック委員会(JOC)の努力の賜物と評したが、最も重要な点は橋本聖子JOC会長が大会前のメディアの質問「メダル獲得数」について、具体的に答えず、「前回大会をよりも」と比較級で濁したことだと思っている。
JOCは伝統的に大会前に団長がメダル獲得数を「予想」する。それが上回ったのは1964年東京五輪の大島鎌吉団長の「金メダル15」だけだ。その時、日本は16個の金メダルを獲得した。以降はデータなき思いつき予想であった。
メダル獲得数よりも重要なものがある。そのことを橋本は暗に示したのだ。それがチームジャパンの躍進の遠因だとは私しか思わない戯言かもしれない。しかし、それがスポーツ思考である。
(敬称略)
2026年3月10日
明日香 羊
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編集好奇
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ミラノコルティナ冬季五輪を斬る(2)に筆を執ることができました。私は今、長野にいます。長野駅前には長野五輪のエンブレムが大きく飾られています。そしてミラノ・コルティナ冬季五輪とパラリンピックに参加の選手を応援するバーナーが萩原健司長野市長の肖像とともに飾られていた。五輪開催地すなわちオリンピック都市が地元出身者だけを応援するとは寂しい限りだ。
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「新・実践五輪批判」連載完結!
https://www.nikkan-gendai.com/?p=news&column=5471
ミラノコルティナ冬季五輪を機に地政学的な視点にオリンピズムのプリズムを入れて世界を見るという哲学的挑戦をしております。どうぞご高覧ください。
YouTube Channel「春日良一の哲学するスポーツ」は下記から
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次号はvol.549です。
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