ミラノコルティナ冬季五輪を斬る(3) 〜オリンピック休戦を誰も語らない〜

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ミラノコルティナ冬季五輪を斬る(3)
〜オリンピック休戦を誰も語らない〜

ミラノコルティナ冬季五輪のオリンピック休戦が国連の採択を得たのは昨年11月であった。その時の報道も静かなものであったが、五輪が開催される直前も開催中も、そして開催後も誰もこの休戦について語ることはなかった。

五輪が閉会したのが2月22日、その6日後にイスラエルと米国がイランに軍事攻撃を仕掛けた。それでも世界はオリンピック休戦を訴えなかった。

トランプのやり方は、4年前の北京冬季五輪の4日後に、ロシアがウクライナに侵攻したのと相似する。ベラルーシも加担していた。

私はトランプがプーチンを真似たという見方をする。それはオリンピズムという視点からだ。どんな軍事評論家も言及しない視点だ。

プーチンの五輪休戦利用については本誌でも再三論じているが、国連決議の空気の中で、どの国も戦争をしないであろうという仮想安定状況の中で、オリンピック開催期間は古代オリンピアの思想を尊重して、休戦を遵守し、終わった瞬間に軍事思考に切り替える。パラリンピックが開催されるまでに停戦できれば、誰も文句を言わないうちに事が終わっている。

国連決議の休戦期間は五輪開会7日前からパラリンピック閉会7日後までであるが、五輪閉会からパラ開会までの11日間の空白を戦争好機とする戦術である。

プーチンはこれに失敗した。それまでのジョージア侵攻(北京2008)、クリミア侵攻(ソチ2014)ではうまくいったが、ウクラナイは思ったように終結させなかった。

オリンピック休戦が軍事戦略の有効な戦術になり得ている現実をトランプも踏襲したことになる。プーチンよりもうまくやるという自信と共に。

そして2022北京冬季の休戦破りについては、国際オリンピック委員会(IOC)が即座に反応し、ロシアとベラルーシを国際スポーツ界から追放する声明を出したにも関わらず、今回IOCは無言を貫いていた。

政治をコントロールできないIOCの正当性を主張するだけの有様に、私は堪らず個人的ルートで私見をIOC会長に届けた。IOCは声明を出した。

それはロシアとベラルーシに対して行ったものとは違い、イスラエルと米国の名称は一切出すことなく、古代ギリシアの休戦思想を想起させる文学的な表明だった。

「オリンピアへの旅の安全を確保し、オリンピアの祭典を挙行できるようにしてください」

コベントリー トランスジェンダー 2026-03-27 10

これしかなかったのか?
直後のパラリンピックがロシアとベラルーシの選手が国家を代表して参加することを認めている状況との整合性も考慮せざるを得なかったのか?
2年後のロス五輪を意識する必要があったのか?

一方で、イランでは1月に国を揺るがした抗議活動デモに関与した多くのアスリートが拘束されているが、その中で、国際舞台でイランを代表してきた選手であるレスラー、サレ・モハンマディが先週、絞首刑に処された。悲惨な事実だ。

これについてIOCは深い憂慮を示したが、「主権国家の法律や政治体制を変える権限も能力もない」とも言っている。

イランの選手たちは連名でIOCへの公開書簡を複数回送り、イランの非民主的なあり方によって選手が被っている不当な扱いを訴えているが、上記のスタンスで何も動くことがなかった。

それはコベントリー新会長が「オリンピックマジック」によって、世界が変わると信じているからだろうか。彼女は五輪開会前にイタリアで起きた米国ICEの警備参入反対デモについて問われると「オリンピックが始まれば全てが変わる」と主張していた。

それは選手たちのオリンピックの舞台での活躍に全てを託しているだけのマジックである。IOCが何らかの「政治的」アクションを起こさない限り、世界の政治指導者には何の影響もない。オリンピックマジックは選手の躍動が動力だが、それを動かす仕組みはIOC会長が作らなければならない。

少なくともIOC会長声明は「オリンピック休戦を破るな」と「選手第一主義を守れ」をイスラエルと米国、そしてイランに堂々というべきだろう。

ここに私はコベントリーへの失望を感じざるを得ない。

彼女は昨日、記者会見を開いた。日本時間で本日の午前零時20分頃からだった。私はイスラエルと米国、そしてイランへの何らかの緊急声明が出ることを期待していた。

するとどうだ。それは「2028年ロサンゼルス五輪で女子種目に出場する選手に、性別確認のための遺伝子検査を実施する」という発表だった。参加資格は「生物学上の女性に限る」とし、「出生時の性別が男性で女性を自認するトランスジェンダーの選手は認めない」宣言であった。

なぜ今?とは日本人記者の質問だったが、コベントリーはその真意に思い至らず「私の会長選挙公約の一つだったから」と答えた。

コベントリーのIOCは社会に迎合する組織になりつつあるように思えてならない。世界がオリンピック休戦破りを責めないのであれば、IOCが声を大にして訴えなければならない。選手の命を勝手に政権が奪うのならば、選手のために現地に乗り込むだけの勇気が必要だ。

バッハ前会長はウクライナ戦争直後、キーウに乗り込んでいる。

コベントリーは会長選挙に臨む心情として、「私の使命は『ウブントゥ』の哲学に導かれている」と言った。

ウブントゥはアフリカの哲学であり「私たちがいるから私がいる」という相互依存と共同体意識に基づく思想。

この哲学がスポーツでコミュニティを作る。スポーツが人々をつなぎ、共通の目標を通じて協力し合う場を提供する。

それはより大きな権力に寄り添って自らの身を助けることと違うはずだ。

2028年のロサンゼルス五輪、開催国国家元首はトランプだ。彼は大統領就任直後に「トランスジェンダーの選手は認めない」という文書に署名している。

ウブントゥの哲学は権力者に靡く弱点を持っているのだろうか。

(敬称略)

2026年3月27日

明日香 羊
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編集好奇
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ミラノコルティナ冬季五輪を斬る(3)でオリンピック休戦を取り上げざるを得ませんでした。バッハ元会長の清濁合わせ飲みつつ世界の政治家と丁々発止を展開している姿はもう過去のものなのか。
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「新・実践五輪批判」連載完結!
https://www.nikkan-gendai.com/?p=news&column=5471
ミラノコルティナ冬季五輪を機に地政学的な視点にオリンピズムのプリズムを入れて世界を見るという哲学的挑戦をしております。どうぞご高覧ください。

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