FIFAワールドカップ2026をオリンピズムから思考する(8) 〜米国vsベルギー、正義は勝つ、トランプの一本の電話を、サッカーは許さなかった〜

━━━━━━ Weekly Column Sport Philosophy ━━━━━━━
週 刊 ス ポ ー ツ 思 考 vol.562
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━Genki-na-Atelier━
https://genkina-atelier.com/sp/
━━━━━━━━━━━
Sport Philosophy
───────────--------------------------__(、。)┓
━━━━━━━━━━━
○○○○○●●●●●○○○○○●●●●●○○○○○●●●●●
FIFAワールドカップ2026をオリンピズムから思考する(8)
〜米国vsベルギー、正義は勝つ、トランプの一本の電話を、サッカーは許さなかった〜

7月6日17時シアトル・スタジアムで米国とベルギーのラウンド16がキックオフ。この試合の見どころは、ラウンド32のボスニア・ヘルツェゴビナ戦で一発退場となった米国のストライカー、フォラリン・バログンが本来なら出場停止処分であるにもかかわらずピッチに立ち、どのようなプレーを見せるのかという一点に集約されていた。

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

バログンが出場できたのは、トランプ大統領のおかげだとされている。トランプ自身がSNSで、FIFAのジャンニ・インファンティーノ会長に電話をかけて処分の見直しを求めたことを、誇らしげに自慢しているからだ。事実、FIFAは規律規程第27条を適用し、レッドカードによって自動的に科される1試合の出場停止処分に、前代未聞の「1年間の執行猶予」を与えた。

この決定について問われたインファンティーノ会長は、「トランプ大統領から電話があったこと」はあっさり認めたものの、「処分を決めたのは独立した懲戒委員会であり、自分は関与していない」と繰り返すだけだった。電話の内容にも、27条適用の具体的な理由にも、一切踏み込もうとしない。

一方で、米国サッカー連盟がレッドカード裁定に異議を申し立て、スポーツ仲裁裁判所への提訴も視野にFIFAと交渉していたという経緯も報じられている。その筋を通した法的プロセスの結果として27条を適用したのだと言うのなら、本来FIFAが世界に向けて説明すべきなのは、大統領からの「直電」ではなく、そのプロセスの中身のはずだ。

にもかかわらず、FIFAは大統領の電話と懲戒委員会の裁量とのあいだに、都合のいい霧をかけたままにしている。トランプの一本の電話が決定を左右したのではないと言い張るのであれば、なおさら自ら霧を晴らし、「なぜこのケースに限って執行猶予を認めたのか」を堂々と主張すべきである。

その曖昧さごと、試合はピッチに押し出された。

少年時代の私は、試合に負けるたびに、自分の日常のどこかが間違っていたのだと信じてきた。練習での怠慢、友人への心ない一言、親に向けた反抗。敗北は、それらに対する「裁定」だと思っていた。だからこそ、勝利とは「正しく生きた証明」でなければならないと、どこかで信じていたのだと思う。

その古臭い信念は、大統領の一本の電話で出場停止処分がねじ曲げられる時代には、もはや通用しない迷信なのだろうか。そう思いかけたところへ、あの米国対ベルギー戦がやってきた。

出場停止処分を、大統領の一本の電話でねじ曲げた米国に対し、サッカーが突きつけた最後通告は法廷の文言ではなかった。

これまで3ゴールの活躍だったバグロンは一点も決められず、ベルギーは前後半それぞれ二点を決めて大勝した。

57分に米国GKマット・フリーズがエリア外に飛び出してロングボールを処理しようとしたが、ベルギーのデ・ケテラーレのプレスでボールを失い、ハンス・ファナケンにダイレクトで決められた。普段ならありえないプレーで、バチが当たったように見えた。

米国ファンがスタジアムを埋める中、そして最後通告が下された。

ルカク W杯 2026-07-09 13

それはルカクの上半身の質量だった。アディショナルタイム、米国のスローインから始まった最後の攻防。守備陣の凡ミスでこぼれたボールを、ルカクが容赦なく刈り取る。そのままペナルティエリア左へと巨体をねじ込むように運び、追走するDFを肩で振り払いながら、右足でゴール右隅へ叩き込んだ。

あの一撃で、バログンのために書き換えられたはずのルールは、ピッチの上で静かに破棄された。政治がどれだけ試合前に結果を操作しようとしても、最後にスコアボードを書き換えられるのは、正しく闘った者だけだと、サッカーは改めて証明してみせたのだ。

サッカーは、いつも私を日常の悩みから救い出してくれた。うまくいかない現実から逃げ込む場所であると同時に、正しく練習し、正しく闘えば、いつか必ず報われるはずだと教えてくれる場所でもあった。私はサッカーをしている時だけ自分自身だった。何に対しても遠慮せず自分を表現できる場であった。だから私は、サッカーが世界を少しでも正しい方向へ導く力を持つことを、どこかで本気で信じてきたのだと思う。

そのサッカーが、政治にねじ曲げられた出場停止処分を前にしてもなお、最後に「正しく闘った側」を選び取った。あのルカクの一撃のあとでなら、私はサッカーに関わってきた自分を、そしてサッカーという競技そのものを、少しだけ誇りに思ってもいいと静かに確信している。

正義が勝つ!私の青春が蘇った。

(敬称略)

2026年7月9日

明日香 羊
────────<・・
△▼△▼△
編集好奇
▲▽▲▽▲
私は中学時代、一人でもずっとボールを蹴っていた。それを見ていただろう2年先輩の女子生徒が学校新聞に詩を寄せた。「夕焼けのグランド、いつまでもボールを追いかける姿。あれが青春の塊なんだ」書いた人が誰かもわからないままだが、この最後のフレーズだけが蘇る。
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
「サムライブルーと武士道」について論考しました。
https://note.com/olympism/n/n43f5785f3b0b?from=notice
note創作大将2026応募作品です。

「新・実践五輪批判」連載完結!
https://www.nikkan-gendai.com/?p=news&column=5471
ミラノコルティナ冬季五輪を機に地政学的な視点にオリンピズムのプリズムを入れて世界を見るという哲学的挑戦をしております。どうぞご高覧ください。

YouTube Channel「春日良一の哲学するスポーツ」は下記から
https://www.youtube.com/@user-jx6qo6zm9f

オリンピックやスポーツを考えるヒントにどうぞ!

『NOTE』でスポーツ思考
https://note.com/olympism

━━━━━━━
考?ご期待
━━━━━━━
次号はvol.563です。

スポーツ思考
https://genkina-atelier.com/sp/

┃------------------------------------------------------------
┃ 購読登録は
https://genkina-atelier.com/sp/ から。
┃△△▲-------------------------------------------------------
┏━━━━━━━┳━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━┓
┃ copyright(C)1998-,Genki na Atelier
┃ ┗━━━━━━━━━━━━━━━━━━┛
┃ ★本誌記事の無断転載転用等はできません。★


┗━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━┛

コメント


認証コード2623

コメントは管理者の承認後に表示されます。