FIFAワールドカップ2026をオリンピズムから思考する(9) 〜サムライブルーはどこへ行く?勝つと思うな、思えば〜

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FIFAワールドカップ2026をオリンピズムから思考する(9)
〜サムライブルーはどこへ行く?勝つと思うな、思えば〜

FIFAワールドカップ2026が終わり、森保ジャパンの半年続投が決まり、様々な論者が日本サッカーの今を語っている。オリンピズムから森保ジャパンと日本サッカー協会の決心を問う。

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日本のスポーツに根づく「柔の精神」と「道」の思想は、日本体育協会創始者であり講道館柔道の祖でもある嘉納治五郎の理念にさかのぼる。嘉納は「精力善用」「自他共栄」という言葉に、自らの力を最も有効に生かしつつ、自らだけでなく他者とともに栄えるという柔道の精神を込めた。

やがてこの考え方は、近代オリンピックを提唱したクーベルタンのオリンピズムと共鳴し、嘉納はアジア初のIOC委員として世界のスポーツ界に迎え入れられることになる。世界最大のスポーツであるサッカーに日本が向かっていく道も、本来はこの「柔(やわら)」の延長線上にあるべきではないか。

「勝つと思うな、思えば負けよ」。
昭和40年、美空ひばりが歌った「柔」の一節は、日本人の胸に深く刻まれた勝負の掟である。勝利そのものをゴールに据えた瞬間、人の心はたやすく揺らぎ、勝てば驕り、負ければすべてを否定したくなる。だからこそ歌は「負けてもともと」と続き、結果に一喜一憂する前に、自分の中にある「柔の夢」、つまりどう生き、どう戦うかという「道」に目を向けよと諭す。勝つことを願わないわけではない。だが、勝利への欲に心を支配させず、負けても折れない構えを保つことこそが、日本の柔道が伝えてきた「柔(やわら)」の精神ではなかったか。

森保監督続投会見 2026-07-27 22

そのまなざしから2026年の日本代表を振り返るとき、何より問われるべきなのは、結果そのものよりも「終わり方」だったはずだ。森保ジャパンは「優勝」を公言してワールドカップに臨みながら、現実の成績はベスト32にとどまった。挑戦的な目標を掲げること自体は責められるべきではない。だが、「勝つと思うな」と戒める歌のことばになぞらえるなら、優勝というゴールイメージだけを前面に押し出し、その約束を果たせなかったあとに、どれほど深い自省と検証があったと言えるだろうか。

柔の精神に立ち返るなら、問うべきは「負けてもともと」と言えるだけの準備と覚悟があったかどうかであり、敗戦後にこそチームと協会の理念が洗い直されなければならなかった。にもかかわらず、日本サッカー協会は森保一監督を続投させ、来年のアジア杯も同じ体制で戦う道をあっさりと選んだ。その姿勢には、ベスト32という結果を「柔の道」を照らす鏡として引き受けようとする気配よりも、「これまでどおり」を優先する惰性の方が色濃くにじんでいる。

日本サッカー協会は、定款や行動規範のうえでは「サッカーを通じて豊かなスポーツ文化を創造し、人々の心身の健全な発達と社会の発展に貢献する」という立派な理念を掲げている。評議員会と理事会、各種委員会による三権分立の仕組みを導入し、透明性の高い公正な法人運営を約束する文言も並ぶ。しかし、森保ジャパンの続投がほとんど既定路線のように決まり、ワールドカップの敗戦をめぐる検証も内輪の総括にとどまっている現状を見ると、その理念は現場の意思決定とどこまで結びついているのかと首をかしげざるをえない。

代表監督の人事ひとつ取っても、広くサポーターや選手の声を汲み上げる仕組みより、従来からの関係者ネットワークの中で「波風を立てない」選択が優先されているように映る。そこには、柔道が「精力善用」「自他共栄」を掲げて自らを厳しく律してきた歴史とは対照的な、自己点検を先送りしがちな組織文化が透けて見える。

サッカー日本代表は、自らを「SAMURAI BLUE」と名乗り、2006年ドイツ大会以降、その愛称を旗印としてきた。侍と青を掛け合わせたこの呼称には、日本の伝統文化と代表チームのユニフォームカラーを重ね合わせ、「日本最高峰のチーム」として世界の舞台で戦う誇りが託されているという。しかし、嘉納治五郎の「道」と「柔(やわら)」の精神を踏まえるならば、その名は単なるマーケティング用のブランドではないはずだ。

勝利への欲に溺れず、敗北をも自他共栄の鏡として受け止める覚悟を持ち、フェアでしなやかな戦いぶりを貫いてこそ、「サムライブルー」は初めて意味を持つ。森保ジャパンのベスト32止まりという現実と、深い自戒もないまま同じ体制でアジア杯へ向かおうとする協会の態度を前にすると、問われているのは成績そのものではない。いま問われているのは、はたして現在の日本代表と日本サッカー協会に、なお「サムライブルー」を名乗る資格があるのかどうかという、より根源的な問題なのである。

今回の日本代表は、予選リーグまではたしかに「サムライブルー」の名にふさわしい姿を見せていた。格上とされた相手に臆せずボールをつなぎ、高い位置から果敢にボールを奪いに行く一方で、倒れても抗議に溺れず、最後まで走り切る。勝っても負けても、そこには嘉納治五郎の「精力善用」「自他共栄」と通じ合う、潔さとひたむきさがあった。その戦いぶりは、日本国内だけでなく世界のサッカーファンの心を動かし、「サムライブルー」という愛称が単なる宣伝文句ではなく、ひとつのプレースタイルとメンタリティを表象する言葉になりつつあることを証していた。

だからこそ、決勝トーナメントで迎えたブラジル戦は、日本代表の心の在り方を映す残酷な鏡になった。前半、佐野海舟が中盤で相手の横パスを読み切ってインターセプトし、そのまま持ち上がって右足を振り抜いた先制点は、今大会の日本が積み上げてきた戦い方を象徴する、鮮烈なゴールだった。相手の力を恐れず、高い位置からボールを奪い、奪った瞬間に前へ出ていく。その一連の流れには、予選リーグで世界を驚かせた「サムライブルー」の姿がそのまま刻まれていた。

本来であれば、あの先制点を合図に、なお一層「奪って出ていく日本」を貫いていく道もあったはずだ。ところがリードを奪ってからの日本は、そこからさらに戦う姿勢を前面に押し出すよりも、「この一点を守り切って勝ちたい」という意識に傾き、本来の形を少しずつ手放していったように見えた。ボールを持たれる時間が長くなるのは想定のうちだったとしても、奪い返した後の一手は急ぎ過ぎて雑になり、相手の圧力をいなして自分たちの時間をつくる「柔よく剛を制す」戦い方より、「結果としての勝利」を守りに行く硬さが前面に出てしまった。佐野のゴールがあれほどまでにサムライブルーの現在形を体現していただけに、その後の変質はなおさら痛ましく映った。

しかし本当に深刻なのは、ブラジル戦での崩れそのものではない。問題は、その結果に対して、日本代表と日本サッカー協会がどれほど根本から向き合ったと言えるのかという点だ。予選で世界を感動させた「サムライブルー」の戦いぶりと、トーナメントで揺らいだメンタリティとの落差を、「柔(やわら)」の精神に立ち返って言葉にし直す作業が見えてこないまま、森保ジャパンは続投となり、来年のアジア杯へと歩みを進めている。このままでは、あの予選リーグで確かに立ち上がっていた「サムライブルー」の心が、結果とスローガンの陰に埋もれ、途切れてしまうのではないか。

サムライブルーを名乗る資格が問われているというのは、成績の問題ではない。勝っても負けても、あの予選で見せたような「柔(やわら)」のプレーとメンタリティを自らに課し続ける覚悟があるのかどうか、その一点が問われているのだ。

(敬称略)

2026年7月27日

明日香 羊
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編集好奇
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森保監督続投の記者会見を見ていた。この雰囲気に何故か国会答弁を思い出した。
現体制を維持していくことが未来のために今を見つけることよりも大事な会見に見えた。
これは一大事ではないか?

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「サムライブルーと武士道」について論考しました。
https://note.com/olympism/n/n43f5785f3b0b?from=notice
note創作大将2026応募作品です。

「新・実践五輪批判」連載完結!
https://www.nikkan-gendai.com/?p=news&column=5471
ミラノコルティナ冬季五輪を機に地政学的な視点にオリンピズムのプリズムを入れて世界を見るという哲学的挑戦をしております。どうぞご高覧ください。

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