幻想の呪縛 〜高橋治之の埋み火〜

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幻想の呪縛
〜高橋治之の埋み火〜

東京五輪・パラリンピック大会組織委員会の高橋治之元理事が逮捕されてから、一週間が過ぎた。メディアからはボロボロと少しずつ情報が溢れてくるが、どれも予想どおりの展開と言える。紳士服大手「AOKIホールディングス」への五輪スポンサー値引き提案、日本選手団公式服装業者への特典交渉、そしてついに森喜朗組織委元会長の名前が出てきた。高橋がAOKI元会長を森組織委元会長に紹介した顛末である。その先に何があるか?は大きな問題だが、それよりも私が問題だと思うのは、高橋治之の存在を現在がどう認識しているかである。なぜならこの認識を誤ってしまえば、本件が落着しても、日本スポーツ界の闇は消えないからである。

一貫してメディアも関係者も高橋の存在を「スポーツ界を牛耳るフィクサー」であり、「日本のスポーツビジネスを変えた男といわれるほどの大物」と定義して、そのこと自身を一向に疑ってみようとしない。スポーツ界に偶像を生んでしまう原因が、まさにこの定義に存在するからである。偶像は実際の姿ではないが、そこに投影したい姿であり、それによって自らの利益や欲望を満たすことができる存在である。まさにアイドルだ。

高橋の偶像について、一つ一つ反省してみたい。まずは、スポーツビジネスを変えた大物と言われる例に挙げられる、1977年の「ペレ・サヨナラゲーム・イン・ジャパン」だ。これは日本サッカー協会と電通が初めて共同開催したイベントであるが、このイベントが大成功するので、その後、サッカー協会は電通と組んでキリンカップ、ゼロックススーパーサッカー、トヨタカップと繋げていくわけである。その時、高橋は33歳。当時の関係者にも聞いてみたが、その時の高橋は「電通の一若手社員」に過ぎないのであり、スポーツビジネスを変えたわけではない。

また1980年からの「がんばれ!ニッポン!オリンピックキャンペーン」も、世界規模のスポーツマーケティング会社ISL設立も高橋が作った訳ではなく、そのリーダーは後に電通常務になる服部庸一であった。「スポーツビジネスを変えた大物」というのは彼のことであれば納得できるかもしれないが、高橋は同時代においては駒の一つに過ぎない。

その服部が1993年に急死する。高橋が実権を握るのはその後であるが、その後の彼の活躍ぶりを冷静に見つめると、その実像には、服部が実行したほどの革命的業績が見当たらない。実際、私が招致に関わった1998年の長野オリンピック招致活動の時代には、一切彼の影響はなかった。そして、メディアがその功績を讃える2002年日韓ワールドカップ招致について振り返ってみると、実にそれは当初のゴールからは程遠い結果であった。元々は日本と韓国の開催権争いであったことを既に多くの人々が忘れてしまっているようだ。

日韓共同開催は、2002ワールドカップ招致としては失敗であった。当時の国際サッカー連盟(FIFA)会長アベランジエに頼る招致活動を続けてきた日本は完全に裏切られた。その中心に誰がいたのか?よく反省するべきである。手柄というより失敗の穴埋めが共同開催だった。

現実にその同時代性的観点から高橋治之を見れば、彼をスポーツ界のドンと言う理由は見当たらない。それがなぜ、今そういう定義になってしまったのか?そこには歴史の再構成という作業が無意識に行われているのである。そしてそこにこそ日本のスポーツ界のみならず日本の社会が抱える闇がある。

2001年に前掲のISL社が倒産する。そして、奇遇にもその年、日本オリンピック委員会(JOC)に新会長が誕生する。高橋治之には願ってもない人物がオリンピックムーブメントのトップになった。幼稚舎から慶應大学までの同窓である竹田恒和であった。それによって、高橋はそれまで強固な人脈が作れなかった日本のオリンピックネットワークに絡むことが可能になった。高橋が自らの偶像を作り上げるきっかけとなる。

電通の高橋としてJOCに存在感を得る。JOC側は高橋の存在を認めるために電通が築いてきたスポーツマーケティングの実績を全て高橋に集約する。それによって自らの努力なしに得られるべき利益が得られると思うからだ。高橋はその再構成された自分のステータスを否定することなく存在すればするほど、それが自らの利益になることを知っていた。そして、この再構成された自らの偶像に自らを投影し、さらに強固な実像に演出した。「俺のおかげで東京五輪が開催できた」とはその最終的雄叫びである。

埋み火 2022-08-25 22

「高橋さんには誰も文句が言えない」という状況はこうして作られた。
この偶像を壊すことができなければ、日本のスポーツ界はまた同様の過ちを犯すことになるだろう。それではどうしたらいいのだろうか?第三者委員会で組織委員会を監視するとか、スポーツ界を監視するとか、一見正論に見える論が仄聞されるが、答えは別の彼方にある。

例えば、東京五輪2020の招致を振り返ってみよう。「コンサルタントと契約しなければ五輪招致の成功はない」とは、2016年5月、日本から振り込まれた買収資金で、アフリカ出身の国際オリンピック委員会(IOC)委員の票を獲得する工作疑惑について、竹田JOC会長(当時)が国会で答弁した時の言葉である。しかし、もしJOC自身に五輪招致活動の知見があればそこにコンサルタントが入り込む余地がなくなる。東京五輪2020招致委が契約した数十のコンサルタントは精査される。JOCがやらなければならないことはまさにこの業務であり、日常からIOC事務局、IOC委員、各国オリンピック委員会などと交流し、精度の高い情報収集を図り、五輪運動普及のために国際的なネットワークを熟成させることである。そうすれば、招致活動自身に有象無象の輩が入り込む余地がなくなる。JOCが本来の五輪運動を司る業務に真摯になることが、五輪に関わる不正を無にする唯一の道と言える。

高橋治之の埋み火は消さなければならない。

(敬称略)

2022年8月25日

明日香 羊

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編集好奇
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偶像崇拝者に偶像を主張しても、焼け石に水であろう。
高橋治之氏の偶像は、今回の事件の解説と批判には都合が良い。
それを肯定すれば、彼を叩きやすいし、彼を叩くだけで解決策も簡単。
そのような人物は排すればいい。
しかし、偶像崇拝が消えない限り、再びそのような人物が登場するだろう。
そこに問題を感じた次第である。
春日良一

『NOTE』でスポーツ思考
https://note.com/olympism

【ダイヤモンドオンライン】
北京五輪の「オリンピック休戦」をむげにしたロシア、
IOCバッハ会長の葛藤
https://diamond.jp/articles/-/298005

【ゲンダイデジタル】
特別寄稿!
「逮捕された高橋治之元理事には9億円 あぶり出される東京五輪招致の闇」
https://www.nikkan-gendai.com/articles/view/sports/309953

短期連載(全3回)
「東京五輪にメス!スポーツマフィアを生んだJOCの過ち」
https://www.nikkan-gendai.com/articles/columns/4389/495

短期集中連載(全5回)
「IOCへの諫言 五輪憲章から矛盾を糺す」
https://www.nikkan-gendai.com/articles/columns/4322/495

日本と世界の重要論点2022↓
【Daiamond Online】
東京2020が日本人の記憶に残らない理由、北京に引き継がれた不信感と意義
https://diamond.jp/articles/-/291658

【Forbes Japan】
「命と引き換えにするほどの価値があるのか議論すべき時」
https://forbesjapan.com/articles/detail/39575
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次号はvol.467です。

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日刊ゲンダイ特別寄稿!
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日刊ゲンダイ連載!
「東京五輪にメス!スポーツマフィアを生んだJOCの過ち」
https://www.nikkan-gendai.com/articles/columns/4389/495

「IOCへの諫言 五輪憲章から矛盾を糺す」
https://www.nikkan-gendai.com/articles/columns/4322/495

「実践五輪批判〜20年東京五輪これでいいのか?〜」
https://www.nikkan-gendai.com/articles/columns/3625/

NHK大河「いだてん」を思考すると題して始めたブログ
「純粋五輪批判」
https://genkina-atelier.com/gorin/

哲学者カントの純粋理性批判と実践理性批判から拝借
「実践」では実際に五輪がオリンピズムを実現しているのかを批判
「純粋」では大河を触媒にオリンピズムの本当を解説

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