人間の涙と競技場の静寂 〜オリンピック憲章第50条を考える〜

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人間の涙と競技場の静寂
〜オリンピック憲章第50条を考える〜

氷は、音を吸い込む。
白く磨かれた滑走路の上には、緊張だけが漂っている。観客席のざわめきも、国旗の色も、やがてはスタートの号砲に溶けていく。

スタートラインに立つ一人の選手。ウクライナのスケルトン選手
Vladyslav Heraskevych
の胸中には、祖国の冬とは異なる冷気が流れているだろう。

彼が着用を望んだヘルメットには、戦争で命を落とした人々への追悼の思いが込められていたという。
それは叫びではなく、怒りでもなく、ただ静かな記憶の印だったのかもしれない。

人が人を悼むという行為を政治と名づけるべきなのか。
氷上に立つその瞬間、彼は国家の代表である前に、一人の人間であったはずだ。

コベントリーvsウクライナ 2026-02-15 10

フランスのスポーツ専門誌Francs Jeuxは、この問題を「人間性とパンドラの箱のあいだで、IOCは常に敗者となる」と評した。その言葉には、規則が感情を押しとどめる場面への、やりきれなさがにじむ。

だが、競技場にはもう一つの沈黙がある。それは、世界の対立が持ち込まれないことで保たれてきた沈黙である。
国際オリンピック委員会(IOC)が定めるオリンピック憲章第50条第2項は、競技場や表彰式における政治的・宗教的・人種的な示威行為を禁じている。

この条文は、涙を否定するためのものではない。むしろ、あらゆる主張がぶつかり合う世界の中で、ただ競技だけに集中できる空間を守るための約束である。

もし今回を例外とするならば、次はどの主張が許されるのか。誰の悲しみは認められ、誰の訴えは退けられるのか。その問いは、やがて競技場を言葉の応酬へと変えてしまうだろう。

元IOCマーケティング局長のマイケル・ペインが第50条の堅持を強調するのは、その「静寂」こそがオリンピックの普遍性を支えていると知っているからである。

それでも心は揺れる。祖国が戦禍にある選手に、何も語らずに滑走せよと言うことの重みを思うとき。人間の涙と、競技場の静寂。そのあいだでIOCは揺れ続ける。

第50条を守るという選択は、冷酷さの証ではない。それは、世界の対立をこれ以上氷上に持ち込まないための、苦い決断である。

そして私たちは問われている。沈黙を守ることと、痛みに寄り添うことは、本当に両立し得ないのか、と。

(敬称略)

2026年2月15日

明日香 羊
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編集好奇
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ミラノコルティナ冬季オリンピックが始まって一週間になる。冬の五輪はどこか情緒的だ。
それは雪と氷の祭典だからだろうか?大都会を離れた山岳地で行われるからだろうか?
しかし、今回は都市と山岳地帯で分散開催されている。両方を味わえる。
それでも冬の五輪は慕情をそそる。その中で激しく闘う選手たちに感動している。
彼らの敵を敬う姿勢に。トランプやプーチンや習近平に学んで欲しい。
でも一番学んで欲しいのはゼレンスキーかも知れない。
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「新・実践五輪批判」連載中!
https://www.nikkan-gendai.com/?p=news&column=5471
ミラノコルティナ冬季五輪を機に地政学的な視点にオリンピズムのプリズムを入れて世界を見るという哲学的挑戦をしております。どうぞご高覧ください。

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