オリンピズムの憂国 続編 〜国際オリンピック委員会(IOC)の一万ドル〜

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オリンピズムの憂国 続編
〜国際オリンピック委員会(IOC)の一万ドル〜

IOC会長コベントリーが自信満々に「オリンピクに参加した選手には一万ドルを支給する」と発表した時、オリンピックが滅びの門にたどり着いたことを知った。

一万ドルという金額の妥当性を問う以前の根本的失態がこの発表にはあったのだ。IOCが1988年にオリンピックへのプロ選手参加を認めた時、アマチュアリズムの死を嘆く人々がいたが、オリンピズムはオリンピックが至高のスポーツ祭典であることを求めていた。

冷戦による東西分裂はスポーツにおいて東高西低を出現させていた。東側諸国はオリンピックでの頂点を求めて選手強化を国家事業として国家の予算でオリンピック選手を養成した。

一方、西側諸国の選手たちは自らのスポーツの頂点を求めてプロとなった。彼らはオリンピックの規定、スポーツで金銭的対価を得ている者は参加できない五輪に出ることよりも、お金を求めていたのであろうか?否、彼らは自らのスポーツの頂点に立つことを求める中で、結果として金銭的対価を得ていたのである。

彼らが参加できないオリンピックは東側の国家が育てたアマチュア選手の勝利の場となっていった。この不公平をIOCはプロ選手の五輪参加によって解消しようとしたのである。

しかし、その条件としてオリンピックに参加することによって選手が金銭的対価を得ないことが残された。この一点はオリンピックのプロ化のために受け入れなければならないオリンピズムからの絶対的命令であったのだ。

オリンピックが世界平和を構築するという理念を持つ大会である限り、その大会に参加できることはその選手の名誉であり、かけがえのない至宝である。その金科玉条があればこそオリンピックは対価を求めずとも「参加することに意義がある」大会となりうるのであった。

今回の決定、一万ドルを選手個人に渡すのは助成金としての支援であり、ギャランティではないというのがIOCの主張である。たった一万ドルの助成金を画期的な成果として誇る心の内にあるものは何か?

🔸コーはバッハに先手を打った

発端は2024年パリ五輪開催前の出来事である。世界陸上(世界陸連は今やWorld Athleticsと言うので私は敢えてこう訳すことにしている)会長のセバスチャン・コーがIOCの許可もなく発表した問題発言が発端である。コーの選手時代はアマチュア選手の鏡のような男だった。米国がボイコットを奨励したモスクワ五輪に時の英国首相サッチャーは追随せんとしたが、その圧力も振り切ってコーは参加、堂々の金メダリスト(1500メートル)となってソ連の人々を感動させた。

Coe & Bach 2026-09-11 23

そのコーが「パリ五輪陸上競技で金メダルを獲得した選手には陸連から五万ドルを与える」と宣言したのだ。この発言に多くの国際競技連盟(IF)は反発した。が、IOCは沈黙を貫いた。

IOCの時の会長はバッハ。選手第一主義を掲げて多くのライバルを退けて第9代会長になったバッハにとって、選手に対して常にメリットとなる施策実践に先陣をきるのは内なる使命であった。コーにしてやられた感があった。何故ならこの金メダリストに渡される五万ドルの財源はIOCがオリンピックで稼ぐ収益のIFへの配分金であったからだ。

IOCが結果的に五輪に参加した陸上競技金メダリストに五万ドルを渡していることと同じになるのだ。しかも選手のために画期的な決心をしたのはコーとなり、この時、第10代IOC会長に出馬を決めていた彼の戦略にまんまとやられたという状況になった。

IOCは「今回の一万ドル支給はメダリストだけではなく『全参加選手』に対してのものである!」と「全参加選手」に力点を置き、そのことを声高らかに言っているのも、コーの戦略が引き鉄となったことを反証している。

🔸一万ドルの価値は?

しかしどうだろう。この助成金は金額を問われたら一溜まりものない。何故一万ドルなのか?IOCは非営利団体であるので、その収益を留保する必要がない。その90%を世界のスポーツに配分している。配分先はIF、各国国内オリンピック委員会(NOC)、オリンピック組織委員会(OCOG)、ソリダリティ基金、難民選手団などである。それを誇るのであれば
夏季五輪参加選手一万人として、たった一億ドルの拠出で何を為そうとしているのか?

一万ドルをもらった選手にとって、それは彼らの五輪参加努力に対する如何程の支援になると言うのであろうか?

これほどの金額でこれまでオリンピズムが築き、育んできたオリンピック精神のレガシーを捨てる価値があるのだろうか?

コベントリーは第10代会長を決める選挙でコーに勝利を納めた。選手への一万ドルの助成金でコーの五万ドルの賞金に勝とうとしたのだろう。バッハに支援してもらった彼女の仇討ちか?

コベントリーはオリンピズムをもっと深く学ばなければならない。オリンピックはスポーツで世界平和を目指す祭典なのだ。選手からの賞賛を望むよりもオリンピアに微笑まれることを願うべきであろう。

(敬称略)

2026年9月11日

明日香 羊
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編集好奇
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まもなく第20回アジア競技大会が開催されます。名古屋で!
私の関わった広島アジア大会から32年ぶりの日本開催です。
アジア大会には世界大戦敗戦からの日本スポーツ界復帰の恩があります。
https://note.com/olympism/n/nd49195d4c4e3?from=notice
久々に現地でアジアのスポーツのシャワーを浴びてきたいと思います。
コベントリー会長も来日されます。
機会があれば一言、恐々謹言申し上げたく候。

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「サムライブルーと武士道」について論考しました。
https://note.com/olympism/n/n43f5785f3b0b?from=notice
note創作大将2026応募作品です。

「新・実践五輪批判」連載完結!
https://www.nikkan-gendai.com/?p=news&column=5471
ミラノコルティナ冬季五輪を機に地政学的な視点にオリンピズムのプリズムを入れて世界を見るという哲学的挑戦をしております。どうぞご高覧ください。

YouTube Channel「春日良一の哲学するスポーツ」は下記から
https://www.youtube.com/@user-jx6qo6zm9f

オリンピックやスポーツを考えるヒントにどうぞ!

『NOTE』でスポーツ思考
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考?ご期待
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次号はvol.566です。憂国のオリンピズム 続々編 を予定しています。

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