WADA批判に見るスポーツの政治利用 〜米国からオリンピズムは去った〜

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WADA批判に見るスポーツの政治利用
〜米国からオリンピズムは去った〜

今更ながらではあるが問題は問題である。

パリ五輪2024まであと86日の今日私の胸に去来するのはやり場のない怒りだろうか?先月WADA(世界アンチ・ドーピング機構)が中国選手とアンチ・ドーピング当局の取り締まりに失敗したと『ニューヨーク・タイムズ』が報じ、ドイツARDが放送し、世論の反発はとどまるところを知らない。

この種の問題は日本のメディアも得意気に報道するから多くの読者もご存知だろう。

北京冬季五輪2022で見事な演技を展開したフィギュアスケートのワリエワ選手に大会前の国内大会時のドーピングが発覚し、大騒ぎになった。結果、金メダルははく奪され、4年間、大会への出場資格停止となった。

その時に問題となったのはトリメタジジンだった。東京五輪2020開催前の国内大会に参加していた中国の水泳選手23名が陽性反応を示したのも同じ薬物だった。そのことを中国アンチ・ドーピング機構『CHINADA』がWADAに報告していたが、WADAはその報告を検証した結果、その件を問題とせず、事実も公表しなかった。当該の中国選手は東京2020に参加することができ好成績を残した。

WADA 2024-05-01 21

なんということだ!私の怒りは治ることを知らない。

しかしそれはWADAに対してではない。絶対善を演じる『ニューヨーク・タイムズ』を筆頭とするメディアに対してである。

『ニューヨーク・タイムズ』は『CHINADA』の報告に疑問符を投げかける。『CHINADA』は選手たちが故意に摂取したわけではなく、ホテルの厨房が“汚染”されていたとWADAに説明し、「ホテルの厨房の排水口、調味料の容器、調理台の通気口からトリメタジジンの痕跡を発見した」としているが、薬物がどこから来たのか、なぜ厨房にあったのかは特定されなかった。その上2カ月もの間、WADAへ本件について報告しなかった。それにもかかわらずWADAが『CHINADA』の報告を受け入れた。と『ニューヨーク・タイムズ』は批判しているわけだ。

『ニーヨーク・タイムズ』に憧れている日本のメディアはこぞって追随する。WADAは反論したが、世論が止まないので、4月29日にファクトシートとFAQを公表した。A4で6ページぎっしりの報告書だが丁寧に読めば、WADAの行動の正当性が理解できるものだ。『ニーヨーク・タイムズ』が詳細を省いた部分、例えば、当該薬物がなぜ厨房にあったのかなどをWADAが問えない理由を挿入すれば、WADAの言い分が分かる。

特になぜ公表しなかったか?についてはクリーンな選手であったとしたら、その公表によって選手が被るデメリットはあまりにも大きいのだから当然であろう。

WADAのウィトルド・バンカ会長が記者会見で、米国アンチ・ドーピング機構『USADA』が政治的な意図を持ってWADAを批判しているとしているが、まさに世界アンチ・ドーピングの世界は政治的対立の場でもあるのだ。

この現実を認識したところからドーピング問題は論じないと真実を見誤る。綺麗事では済まない世界なのだ。

アングロサクソンはロシアを排除し、中国に喧嘩を売る。それらの政争にスポーツが巻き込まれないように設立されたのがWADAのはずだ。笑止千万なのは、その根本的背景を知らずに、そのWADAに「透明性をもって、できるだけオープンに説明を尽くして欲しいと思います」と訴える高名なニュースキャスターである。WADAの公平性を否定するのは、米中の政争に油を注ぐだけである。バイデン政権はスポーツ担当相の国際会合で、この問題を議題に取り上げる予定らしい。

米国がオリンピックを政治利用するのは今に始まった話ではない。オリンピズムを米国に求めるのは至難の業と言える。

(敬称略)

2024年5月1日

明日香 羊
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編集好奇
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なぜ今米国からドーピング問題が提示されたのか?中国との政治的駆け引きが透けて見える。スポーツ王国である米国はスポーツのパワーを熟知している。故に政治に利用するのは当然と考えているのだ。モスクワ五輪ボイコットも米国だった。北京冬季五輪の「外交的」ボイコットも米国だった。今世界が思考すべきはスポーツの平和利用だ。その先頭に立つべき国が日本だと思うのだが。じっと手を見る。否、足元を見る。寂しい限りだ。

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