日本サッカーの忘れ物 〜ベッケンバウワーの死とイラクがくれた敗戦〜

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日本サッカーの忘れ物
〜ベッケンバウワーの死とイラクがくれた敗戦〜

「最強の日本代表」「優勝しかない」「どんな形でも点が取れる」一昨年のカタールW杯以降の日本サッカー代表サムライブルーへの評価は盤石に思えた。サッカー専門のfootball channelですら「史上最強の日本代表は? アジア杯歴代ランキング1位。W杯から続く快進撃! かつてないほどの選手層」との見出しをつけるほどだ。

サッカーファンのみならず、常々日本の弱さを上げ膳据え膳でカバーしたり、あるいは手のひら返しで蔑んできたサッカー専門家たちも、AFC アジアカップ カタール 2023を迎えるに当たっては日本が最強であることを疑っていなかった。

その期待を裏切ることなく日本代表はグループステージ初戦ベトナム代表との試合に逆転されつつ逆転し、その実力を顕現化してみせた。そして迎えたイラク戦は2024年1月19日のキックオフ。中継したテレビ朝日の解説者たちは誰もが勝利を疑わず、日本の圧倒的「勝ち」を確信した予想を展開していた。

しかし、その根拠を探れば、その暗黙の前提に「歴代最長となる国際Aマッチ10連勝の記録」があり、さらにその奥にあのドイツにカタールW杯で勝利をあげ、さらにその後のガチンコマッチ2023年9月9日アウェイで4−1と快勝した歴史があった。

あの謙虚な森保一監督も今年の1月18日放送の徹子の部屋では「彼の人生の目標がW杯優勝である」と言ってのけた。一億総自信満々と言うべきか?!そして私は憂国の情に浸るに至った。

それはあの皇帝ベッケンバウアーの逝去の報に接した時から沸々と私の魂の奥から滲み出てきた感情であった。ベッケンバウアーと言えば、私の年代のサッカー男にとっては絶対的な存在であった。王様ペレと対等に語られる存在であった。私が大学生の冬、国立競技場でバイエルンミュンヘンと日本代表の試合が行われた。日本が誇るストライカー釜本と皇帝との勝負!が売りだったが、私は試合をそっちのけで皇帝を実際に目の前で拝めることだけに興奮したほどである。

ベッケンバウアー2024-01-20 17

皇帝ベッケンバウワーがどれだけ日本のサッカーに影響を与えてくれたかを思うにつけて、さらにその前にあるデッドマール・クラマーのサッカー指導を強烈に想起するのであった。釜本を世界に知らしめた1968年メキシコ五輪。日本は銅メダルを獲得する。釜本は得点王に輝いた。その端緒は1964年の東京五輪、日本代表の選手強化のために招聘されたのがクラマーであり、彼の魂のこもった指導が日本サッカー発展の礎となったのである。

当時、日本代表のコーチであった岡野俊一郎(のちのJOC総務主事、日本サッカー協会会長)は彼の指導を自らの通訳で紐解いた。当時の日本代表はボールリフティングもできなかったと言う。技術指導はもちろんだがそれ以上に私が一番心に残っているのは、「大和魂」である。ドイツのゲルマン魂に匹敵するものを日本人は持っている。その魂を球に込めろと言うのだった。「ボールをもっと可愛がれ。ボールをきらえば ボールも君をきらう」とも言った。

日本のサッカーはそこからよちよち歩きでここまで来た。メキシコ五輪銅メダルで日本リーグができて一時的に盛り上がったが、その後低迷、しかしクラマーから魂を受け継いでいた人々がJリーグ発足に漕ぎつけ、夢のワールドカップ本戦出場を果たし、以来、連続出場を続けるまでになった。そして2022年W杯ではドイツに逆転勝利を得られるまでになったのだった。

日本サッカーはドイツのおかげで成長してきたのだ。そのことを忘れていないか。日本はドイツ代表にガチで二戦勝利しただけで有頂天だ。そして、日本人の中にはドイツを下に見ている人もいるほどだ。YouTubeなどで「ドイツを手玉にとる」日本のイメージが出回っている。私は恐ろしいと思った。今の日本サッカーが成長できた恩を忘れ、自らの成功、自らの勝利だけを是とする日本の在り方に。

日本のゴールの先にW杯優勝があったとして、果たしてその先に何があるのだろうか?その勝利が世界に朗報となるだろうか?「日本が勝った!」と言うだけでは何の意味もないのではないか?

ベッケンバウアーはサッカーの場においては常に貴公子であった。どんなに日本のサッカーが下手くそであっても相手をリスペクトして戦ってくれたのだった。その彼が日本のサッカーの成長を喜ぶことは当然のことであり、これからは共にさらに成長していこうと思うはずだ。日本が求めるサッカーの勝利に他国と共に育っていこうという気持ちがあれば、ドイツに快勝した後の日本の行き方は違っていたであろう。

日本の強さを認めているのは日本だけではない。例えば、ずっと強いライバルであった韓国のメディア『スポーツ朝鮮』は「ホームと遠征を選ばず、日本代表は圧倒的なチーム力を誇っている。また、何より特筆すべき点は、ヨーロッパ、南米、北米、アフリカ、どの大陸のチームを相手にしても勝利しているところだ」と。冷静である。

しかしその韓国にも日本は戦いを通じて育ててもらったのだ。もし今韓国が認めるように日本がより強くなったとしたら、その先のゴールはその韓国とともに育つことを望まなければならないだろう。

日本人は自らの成功とともに恩を忘れてしまうことが多くある。アジア大会におけるインドのご恩については既にスポーツ思考や他誌でも何度も述べているが。忘恩はやがて敗北を招く。

2024年1月19日のAFC アジアカップ カタール 2023 グループリーグ第二戦、日本はイラクに敗れた。解説者の予想はことごとく外れた。

私はこの敗北を喜ぶ。それは日本サッカーのゴールがどこにあるかを強烈に反省させるきっかけになり得るからだ。

森保監督はこのAFC アジアカップでの日本の戦いが能登半島地震で被害に遭われている方たちに光となることを望んでいるようだ。それが本当ならば、このイラクからもらった敗北はそのゴールにとって非常に重要な第一歩になるだろう。

(敬称略)

2024年1月20日

明日香 羊
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編集好奇
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アジア杯のサッカー日本代表にはテーマがある。イラクに敗れてもやり遂げなければならないこと。それは戦いを諦めない姿だ。東北大震災の年、2011年7月17日ドイツはフランクフルトで日本女子サッカー代表は米国を延長戦終了間際に同点に追いつき、そしてPK戦で優勝した。日本国民に大きな勇気と力を与えた。サムライブルーにはそれと同様のミッションがある。

YouTube Channel「春日良一の哲学するスポーツ」は10日ごとに更新されています。
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コメント

  • 良い論考ですね。

    スポーツにおける「ライバル」と「敗北」の意味。
    また「恩」ということ。
    これらはついつい忘れられがちですが、
    そのこと自体が弱さ、フィロソフィーなき勝ち急ぎ
    なんですね


  • 日本のサッカーにないもの

    まことに、日本のサッカーにないのは、
    日本流サッカーのフィロソフィーと、それを体現する世界的な主人公ですね。
    それと「縁」とか「恩」のような仏教的・儒教的倫理観も廃れてきている。

    負けが勉強になることがある、その通り。スポーツの場合は、敗戦こそが
    まことの薬ですよ。



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