なぜ東京五輪組織委員会理事会はNGだったか? 〜無限の無責任体制の巣窟〜

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なぜ東京五輪組織委員会理事会はNGだったか?
〜無限の無責任体制の巣窟〜

札幌冬季五輪開催の夢を当事者が諦めたのは東京五輪2020汚職事件がきっかけである。しかし、それはその当事者に五輪運動を背負おうという意志がないことと表裏一体である。東京五輪汚職とオリンピズムあるいはオリンピック精神が全く別のものであり、当事者自身が正当な五輪主義を招致活動において追求していけるという意志があれば、諦める必要は全くなかったからだ。

東京五輪組織委の一理事が私腹を肥やすために活動したことを放念できた組織委のあり方、その執行部である理事会のあり方こそ反省されるべきところであるのだが、その責任を表明したのは私の知る限り荒木田裕子副会長だけである。

ある理事は「理事会は意見を出し合って結論を出す場ではなかった」と白状していて、その会議体のあり方を追求すればそれはまさに建前の理事会であり、本音の執行部隊ではなかったことを示している。自らの会社に利益を誘導した形になった理事は実働した唯一の理事と言えるかも知れない。ただ会議に出ていただけのその他の理事は業務を執行しない名誉職であったに過ぎない。にもかかわらず「機能しない理事会」を自らの反省なしに第三者的に批評している理事もいてこれには閉口するしかない。

このような状況がなぜ起こるのか?

日本体育協会(体協)に在職し総務経験のある私にはよく分かる。体協理事になることは名誉なことであって、使命を果たすことでない。事務局幹部主導で計画した案を理事会を仕切る会長や専務理事と詰めて、その案が通るように理事会に図るだけで、「一般理事」はシャンシャンと賛同すればいいだけ。そこに反対意見などを述べて堂々と論戦を挑む者は「空気が読めない」役員として次第に蚊帳の外に置かれ、二年ごとの役員改選で次第に淘汰されてしまう。そうなると事勿れ主義に徹して波風を立てないで会議体を維持していくことに精力を費やすことになる。

私が17年間、体協や日本オリンピック委員会(JOC)にいて、その会議体に「ふざけるな」と言って辞めていったのは大島鎌吉だけである。モスクワ五輪ボイコット後に、「スポーツで平和」を唱えてJOC常任委員会(今のJOC理事会)を去った。

経営の神様、松下幸之助が創業した松下電気はパナソニックとなってグローバル企業の代表的存在として君臨してきたが、ここ40年間低迷が続いていると言う。その理由を分析していくとその原因の一つに「取締役会」の存在と機能不全があった。事業拡大に伴い事業部署が増え、それぞれを代表する形の取締役の数も増え、その会は上に忖度する会議体となり、現状を維持していくための空気に支配されてきたという。(豊島晋作のテレ東経済ニュースアカデミー伝)

取締役数の多い取締役会はそれぞれがそれぞれに忖度しその場の空気を維持するために機能しようとする。その結果、その会社の成長にとって最適な決議を生み出すことができない。そうなると現状維持が精一杯にならざるを得ない。

これがまさに東京五輪2020の組織委理事会の本質であったと言える。ちなみに同理事会は44名の理事が雁首を揃えていたが、自分たちが東京五輪運営の鍵を握っていると認識している理事たちがほとんどいなかった。事務総長以下の事務局が仕切る事業運営準備を承認する機能のみがあった。

これは日本の大企業体が本質的に抱える問題点でもあるが、その構造はスポーツ界の組織運営にも適応されるので、さらに深刻な問題を引き起こす。それは第一義的にはスポーツ団体に利益を出すことが求められないので、事業収益については相対的に放念していればいいからである。これによって結果についての責任が放棄される。

空気が読める理事が優位に立ち、そういう理事がいくら増えても責任を取る意識が霧散する。これが無限の無責任体制の根本である。だから札幌五輪招致が挫折した責任は東京五輪2020の理事にあると言われても誰もピンと来ない。我関せずの現状を示している。

この悪しき風習を乗り越えるための方策は何か?
理事会の少数精鋭化しかないのである。例えば、現在JOC理事総数は30名。山下泰裕会長は初就任時の改革として競技団体からの理事選出を競技団体に捉われない理事選出にしたはずであるのに、多くが競技団体関係者である。

かつて「JOCは競技団体連合会ではない。もしそうなら私は別の体協を作る」と言ったのは他でもない嘉納治五郎であった。

オリンピズムに精通し、少なくともオリンピズムを学び、日本のオリンピック運動に責任を持とうとする有志が理事会を構成する以外にない。そしてそれは少数で足りる。

「役員は二年で変わる。しかし事務局は半永久的存在だ。事務局に知識、情報、経験そして財産を残さなければならない。そのために君たちに頑張ってもらいたい」故、岡野俊一郎JOC専務理事(IOC委員、日本サッカー協会会長)が若き日の私に語った言葉だ。
(参照:https://genkina-atelier.com/sp/index.php?QBlog-20170205-1

オリンピック精神への志ある理事とその意思を支えるために労力を惜しまぬプロフェッショナルな職員がオリンピック運動を支える。それは少数精鋭であるべきだろう。

スポーツ庁 2023-12-30 17

東京五輪汚職事件以降、スポーツ庁主導で「大規模な国際または国内競技会の組織委等のガバナンス体制のあり方」が指針的に発表されているが、技術論に陥っている。原点に立ち返って五輪運動を見つめれば、その答えは至って単純である。

スポーツ団体には無限の無責任体制の巣窟があることをまずは悟ることである。

(敬称略)
*役職は当時の肩書きで表示しています。敢えて「元」はつけておりません。

2023年12月30日

明日香 羊
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編集好奇
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今年も後一日。
2021後半から凄まじいスピードで本日に至っている気がします。
皆様はいかがでしょうか?
私的に今年のヒットは「ウクライナ冬季五輪の胎動」(日刊ゲンダイ5日集中連載)でありました。
スポーツが戦争にできることを論じました。
来年のパリ五輪開幕前までウクライナ冬季五輪実現のための努力を続けます。
新年はホームランが出るといいなあ。
引き続きよろしくお願いいたします。

YouTube Channel「春日良一の哲学するスポーツ」は10日ごとに更新されています。
元旦には新年のご挨拶をする予定です。
https://www.youtube.com/@user-jx6qo6zm9f

『NOTE』でスポーツ思考
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考?ご期待
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次号はvol.495です。

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