IOCの「遁走の術」について 〜トランスジェンダー選手の女子種目参加問題〜

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IOCの「遁走の術」について
〜トランスジェンダー選手の女子種目参加問題〜

オリンピックの世界がドナルド・トランプの登場で最も衝撃を受けるべきは「トランスジェンダー選手の女子種目参加」についてである。国際オリンピック委員会(IOC)は人権擁護と競技の公平性の狭間でこの問題の解を出し尽くしていない。科学的根拠を実証するために多額の予算を計上して、それぞれの競技を統括する国際競技連盟(IF)の研究調査を支援しつつIFの報告を待機している。

この問題がなぜかくも重要かと言うと、2028年のロサンゼルス五輪を控えているからである。主催国のNOCである米国オリンピック・パラリンピック委員会(USOPC)の態度表明が注目を集めていた。

折しも最近行われたUSOPC理事会の後、サラ・ハーシュランド最高経営責任者(CEO)は、「私たちがそのような立場を採用するのは適切ではない」とした。その根拠は、参加資格の基準はNOCではなく、世界レベルではIFが、国内では各国競技団体(NF)が定めるからであると言うことだ。

IOCもNOCもこの問題の解を持たない。ということになる。

立原正秋の「男の美学」に喧嘩術入門があって、まずは「逃げるが勝ち」(敷衍すると「逃げるが価値」)が説かれていたのを思い出す。

私も若かりし頃は血気盛んでよく喧嘩をしたものだが、ある時期からできるだけそれを避けるようになった。早く走れなくなったからである。

一発蹴飛ばして「逃げる」、いざとなったら「逃げる」。これによってそれ以上の武力闘争を避けることができる。しかし、走れなくなったら、最初から戦を起こさない以外に仕方がない。

男の美学 2025-04-24 13

「遁走の術」を覚えるべし。

IOCはこの「遁走の術」の名手である。かつて色々と共に仕事をしてきたが、いつも肝心要の場に入るとうまく逃げられた。

流石にUSOPCも今回は「遁走の術」を使ったようだ。

さて、このようなIOCの行き方をメディアと識者は「IOCは丸投げしている」と批判する。しかし、それは世界のスポーツ機構組織論を理解していないからである。

IOCはそれぞれの競技の統括権利を有するIFにその判断を委ねるしかあり得ない。それがIOC、IFそして各国地域の責任者である国内オリンピック委員会(NOC)の三巨頭機構(トリパタイトコミッション)を守るあり方であり、これがスポーツの政治からの「自律(autonomy)」を成立させる条件である。

この問題に真っ向から真剣勝負を挑まざるを得ないのはIFである。世界陸連会長のセバスチャン・コーは逃げも隠れもしないようだ。先の第十代IOC会長選挙の立候補中はそこまで明言まではしなかったが、敗れた今は勇猛果敢である。ロンドンで最近下された判決が「人の性別は出生時に定義される」とされたことを受け、「トランスジェンダーである男性をまだ女子のカテゴリーに入れているスポーツ統括団体には、もう言い訳はできない」と言い切った。

国際自転車競技連合も世界水連もトランスジェンダーの選手の女子種目参加禁止を事実上強化しているようだが、それぞれの団体がロサンジェルス五輪の参加資格コードを明らかにするにはまだ時間がかかるだろう。

それぞれの結論が出たとしてもまだ残るハードルがある。
オリンピック開催都市契約では、IOCが資格認定したあらゆる個人の出入国を開催都市は約束しなければならず、開催国は保証しなければならない。

その点については当vol.521で述べているとおりである。
https://genkina-atelier.com/sp/index.php?QBlog-20250216-1

USOPC会長のジーン・サイクスによれば、選手団の査証に関して 「意義ある保証」を得ているとしているが、トランスジェンダーの排除に関する懸念については一歩踏み込んではいない。競技特性によってはトランスジェンダー選手の女子種目参加を認めるケースも出てくる可能性が否定できない。

その時、スポーツの「自律」のために正々堂々とトランプに立ち向かう覚悟があるかどうか?この問題について「遁走の術」は使えるだろうか?

米国からオリンピックが逃げるという手はあるかも知れない。

(敬称略)

2025年4月24日

明日香 羊
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編集好奇
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書棚を探したがかつての愛読書「男の美学」が見当たらない。
喧嘩術の他、世阿弥論もあって何度も読んだ記憶があったが。
もはや「男の」美学は禁句なのだろうか?
LGBTQ+の美学は私には書けそうもない。
私は「秘すれば花」の世界が好きである。

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