バッハはなぜ彭帥と対話したか? 〜選手第一主義の慟哭〜

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バッハはなぜ彭帥と対話したか?
〜選手第一主義の慟哭〜

これほど日本人に誤解されたIOC会長もいないだろう。九人目の会長、トーマス・バッハが日本人に嫌われるきっかけとなったのは、ワシントンポストが今年5月の記事で「ぼったくり男爵」と呼んだことだと思う。コロナのパンデミックが治らない状況で、東京五輪開催に消極的な日本人に対して、積極的なメッセージを投げ続けるIOC会長に「空気読めない人」というイメージをどこかに持っていた日本人にとって、米国の権威あるとされる新聞のコラムが放ったIOC会長=ぼったくり男爵の定義は懐に落ちるものだった。自らの判断基準を持てない日本人にとっては「空気を読むことが生き残る道」と思えるのだろうが、百戦錬磨、長い闘争の歴史に揉まれてきた欧州の人々にとって、空気圧は自らの道を進むために跳ね除けるものである。

事実、IOC委員の原型そのものは「ぼったくり男爵」であるどころか、伝統的に自腹でスポーツを支えるノブレス・オブリージュを実践してきた人々である。1984年以降のオリンピックマーケティングの成功から潤えるオリンピックとなってから、この利益に群がる人々の存在が浮かび上がってきたことも事実だが、それだからといって、IOC会長が「ぼったくり男爵」であるとの定義は一方的過ぎるだろう。

特に、バッハについて言えば、IOC会長の職になければ年間6000万円以上を稼ぐことができる弁護士である。IOC委員になることで生活を成り立たせようとしたどこかの国のお偉方とは違う。彼はある強き意志を持ってIOC会長になっている。選手がオリンピック運動の中心にならなければならないという信念から来ている。しかもそれは競技に於ける中心というだけでなく、その経験と知恵がIOCの運営の中心に生かされなければならないという意味である。なぜか。オリンピック運動の究極にある「世界平和構築」の担い手は選手であるからだ。フェアプレイの元に繰り広げられる武器を持たない戦いが全てを超えて人類を一つにする場となるとの思想がある。

Where is Peng Shuai?

Peng Shuai 2021-11-23 19

今回、中国の著名な女子テニス選手、彭帥(ペン・シューアイ)が元中国政府高官から性的虐待を受けていたことをWeChatで告白し、その投稿が数十分後には消され、彼女のアカウントも消滅したことで大騒ぎとなった。「彼女は何処へ?」中国の権力が選手の人権を犯しているという構図が見えた。女子テニス協会(WTA)の会長が中国でのサーキットを中止しても、彼女の所在を突き止めると公にしたので、その火消しに中国側が躍起となり、国営メディアで彼女の無事を示す投稿を伝えたり、映像を上げたり頑張っているが、頑張れば頑張るほどボロが出て、世界の不信を逆に煽る形となっていった。

ペン・シューアイ本人が登場して無事を告げれば問題はクリアだが、それができない事情があることは明らかだ。中国も袋小路に追い込まれていた。

その矢先、IOCはバッハ会長がペンと直接テレビ電話会談をしたと発表した。同席したのは李玲蔚IOC委員(中国)とエマ・テルホ選手委員長(フィンランド)で、テルホによれば、「彭帥が元気にしているのを見て安心した。彼女はリラックスしているように見えた」と言う。

この会談をどう見るか?いくつかのメディアから取材を受けたが、その前提は、IOCが中国のためにペンの無事を確認して、世界を落ち着かせることに協力したのではないかとの疑惑。突然、IOCが出てきたことへの違和感だった。冒頭に述べたバッハ会長への日本人が有するイメージからすれば当然かもしれない。しかしIOCは一方的に中国政府に利用されただけではない。

スポーツ思考はこう見る。WTAや選手が声を上げても中国政府がペン自身を表舞台に出すことには時間がかかる。長くなれば命の危険もある。選手第一主義を標榜するバッハは習近平への人脈を使い、ペンとのリモート面会を求めた。最終的に中国側はペンとのやりとりをリアルタイムで流さないのであればと言う条件を付けた。IOCが静止画とテキストで今回の会見について明らかにしたのはそのためである。これによって軟禁状態にあったペンにバッハ自身が会うことができIOCが安否を確認したと言う事実を得た。そして北京五輪での会食を約束することで中国側に彼女の生命を保証させた。ペンの生存をバッハ自身が確かめることが緊急課題であったからだ。

この交渉のバッハ側の弾は、北京五輪開催であり、もし今この問題がこじれたら、人権団体のみならず選手が黙っていないことであった。そして、中国が抑えたい元政府高官のスキャンダルについては触れないと言う条件を飲んでやることで逆に中国に「貸し」を作り、さらに人権問題への対応を迫る礎にした。それは今後も続く難儀な交渉だが、バッハがペンに面談することでペンの命だけは少なくとも担保することができた。

勇ましくIOCが中国政府に「彭帥の生存確認を求める」と大上段に振りかぶって直球を投げれば、日本の人々もメディアも大喝采をくれるかもしれないが、それは中国の新たな反発を生むだけでホームランとなるかもしれない。最も重要なペンの命が危うくなる可能性もある。スポーツにしかできない外交がある。

スポーツ外交とは「静かなる」外交である。

(敬称略)

2021年11月23日

明日香 羊

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編集好奇
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今回のバッハ会長の行き方はスポーツが政治に対してできる
精一杯であったと思います。
自分がバッハの立場であれば、習近平に対して彭帥を救おう
としたら、同じことをしたでしょう。

春日良一

【Forbes Japan】
いま改めて考える「聖火リレー」の意味と歴史
https://forbesjapan.com/articles/detail/39557

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次号はvol.444です。

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