2021.12.14
カテゴリ：オリンピック
五輪音痴を笑う 〜政治家ばかりか専門家のはずの人々まで五輪を知らずに五輪を語る〜
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週 刊 ス ポ ー ツ 思 考 vol.446
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五輪音痴を笑う
〜政治家ばかりか専門家のはずの人々まで五輪を知らずに五輪を語る〜
開いた口が塞がらないとはこのことだ。たまたまジムの自転車をこいでテレビを見ていたら、あるワイドショーで、米国の北京五輪に政府高官を派遣しないことについて、「外交的ボイコット」と呼び、追随する英国、カナダ、オーストラリア、追随しないフランス、イタリアが紹介され、専門家が見解を求められ、その人が「個人的にはJOCの山下会長が行けば良いと思います」と言うのを聞いた時だ。
数日前、岸田首相がこの問題で「国益を考え、五輪の意義を考え、総合的に判断する」と発言し、その後、周辺から聞こえてくる声に「政府は山下JOC会長を派遣する案も持っているらしい」と言うから、思い切り笑ってやったばかりだ。本件は、本日発売の日刊ゲンダイに特別寄稿して諫言しているが、政治家が五輪音痴なのはまだしも、専門家と称される口が同じことを吐くとは世も末だ。
山下はJOC会長でありかつIOC委員であるのだから、北京オリンピックに行くのは当然である。誰が行けと命ずる話ではない。政府が山下JOC会長を北京オリンピックに派遣すると言った瞬間に、山下は政府の命を受けてオリンピックに派遣されることになる。スポーツの自律を政治が犯すことになる。これは明らかな五輪憲章違反だ。政府の政治的意図を託されているからだ。
黙っていても、山下が行くのはオリンピックの常識からは当然なのであり、中国から見れば、オリンピックファミリーのメンバーの訪中なのだから、中国政府にとっても、政府高官を派遣しなかった米国と日本は同様となる。それを政府の名代として派遣したと日本政府が中国政府に説明したところで意味がない。
それでも米国にも中国にも義理を果たしたいと言うのなら、せめて橋本聖子という国会議員であり、かつ東京オリンピック・パラリンピック組織委会長である人物、政治とスポーツ両方の顔を持つ人材を使うしかないが、米国には組織委会長として行っているだけと言いつつ、中国には政府の名代と言う二枚舌外交に陥る。
そろそろ卑屈な外交を卒業してもらいたい。東京五輪をコロナ禍でも開催し、人類が一緒になれることを示した国として、世界が認めている今こそ好機である。その直近五輪開催国の代表として、岸田首相が勇気を持って「外交的に」参加し、中国の習近平主席に「私はオリンピックの理念に賛同して参上しました。五輪は人権を促進することを謳っています。貴国での人権問題を改善することを期待します」と言い、バイデン大統領には、「この機会に五輪の理念実現のために、共に参加して習近平主席を覚めさせましょう」と橋渡しをすれば、日本の新しい外交のあり方が示せるのである。
政府がダメでもこの人ならばと期待していた小池都知事が「北京五輪には招待されていない」と言って、自らが北京五輪に行かない口実の一つにしようとした時、私の落胆は相当に大きいものであった。五輪開催都市はオリンピックシティと呼ばれ、その名誉は永遠のものだ。その首長がオリンピックに招待されないわけがない。しかも直近の五輪を開催した都市であり、対コロナと言う共通の課題に取り組むべき北京市が招かないわけがないのだ。「まだ招待状は受け取っていない」と言うのならわかるが、「招待されていない」と言うのは、「行きたくない」と言うのと同義語になる。
五輪の一年延期という掟破りを挙行してまで開催した国、ニッポン。その国の人々に五輪の意義が伝わっていない。そもそも五輪の理念実現のためではなく、政権維持と経済復興のために五輪を呼んだからだろう。オリンピック理念の「あらゆる差別を超えて集まる」志向がどういう意味を持つのか？自由主義と権威主義の対立を超えて、政治、宗教、人種、民族、性別あらゆる垣根を超えて集まる手段として、オリンピックがあり、その場を称賛するものも調和ある世界を求めていく。選手の懸命のパフォーマンスがそれを直感的に伝える場がオリンピックである。
外交的ボイコットは中国の人権問題を解決することはできないだろう。むしろ、五輪であるが故に政治を超えて世界の政治指導者が集まり、調和ある世界を称賛する中に、人権を守る姿が表象される。それがスポーツ外交である。選手はベストパフォーマンスを実現するためにその場に集まる。彼らはスポーツのことしか考えていないだろう。しかし、その姿が政治を超えて人類の目指すべき道を示すのである。故に「オリンピックは参加することに意義がある」というわけだ。
(敬称略)
2021年12月14日
明日香 羊
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編集好奇
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私のスポーツ外交は中国との交流から始まった。１９７８年日中スポーツ交流十周年で来日した中国代表団一行を２週間アテンドして、長野国体など日本の各所を回ったのである。政権が変わり、日中関係も波乱万丈であるが、スポーツを通じた友好はその後も消えることはない。
春日良一
本年初頭に執筆した記事が好評というので、ご覧ください。↓
【Daiamond Online】
東京2020はなぜ中止にならないか？五輪生存をかけたIOCの「信念」
https://diamond.jp/articles/-/257564
【Forbes Japan】
「命と引き換えにするほどの価値があるのか議論すべき時」
https://forbesjapan.com/articles/detail/39575
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考？ご期待
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次号はvol.447です。
スポーツ思考
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日刊ゲンダイ連載！
「実践五輪批判〜20年東京五輪これでいいのか？〜」
https://www.nikkan-gendai.com/articles/columns/3625/
NHK大河「いだてん」を思考すると題して始めたブログ
「純粋五輪批判」
https://genkina-atelier.com/gorin/
哲学者カントの純粋理性批判と実践理性批判から拝借
「実践」では実際に五輪がオリンピズムを実現しているのかを批判
「純粋」では大河を触媒にオリンピズムの本当を解説
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