vol.295 なぜ今スポーツ省か? ~モスクワボイコットと金メダルの呪縛

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  週 刊 ス ポ ー ツ 思 考 vol.295
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  Sport Philosophy 

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 なぜ今スポーツ省か?
 ~モスクワボイコットと金メダルの呪縛~
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 秋風が吹くと私はなぜか1988年のソウルオリンピックを思い
出す。大陸独特の朝晩の温度差。早朝、選手村の本部室に行き、
窓を開けると朝の清々しい新鮮な空気が入ってくる。モーニングカ
ーム。ソウル五輪の思い出とともにこの静けさが蘇る。

 終日の本部業務は決して楽なものではなかったが、しかし、朝の
静けさはとても良い記憶としてソウルオリンピックのくれた贈り物
だった。

 しかし、大会終了後の日本スポーツ界は熱くなった。「金メダル
がたったの4つ。もう韓国にも距離を開けられた。このままではどう
しようもない」そして、そこでJOC(日本オリンピック委員会)
独立論が巻き起こった。

 実はこの所謂「危機感」は1976年のモントリオール五輪で金
メダルが二桁を割った時から始まっている。1964年東京五輪で
は、それこそ国を挙げての選手強化が功を奏して、16個の金メダ
ルを獲得している。その後、1972年ミュンヘンでは13個。次
の大会であったモントリオールの9個がショックだった。

 そしてこの頃から日本体育協会は「スポーツ省設置」運動に傾倒
する。時の会長、河野謙三は参議院議長もやった政治力で、体協へ
の国庫補助金を倍増させた。返す刀でスポーツ省設置に動いた。
1978年の体協に就職した私は当初総務部配属、そこで担当にな
った委員会が「スポーツ省設置検討委員会」だった。そこでは検討
の日々が続いていたが、スポーツ省が実現することはなかった。

 この時の発想も「同じく選手強化のため」であった。しかし、見
落としてはならないのが、ソウル五輪後の決心には、1980年の
モスクワボイコットの悔恨が含まれているということだ。それまで、
「参加することに意義がある」オリンピック精神に基づいて、参加
し続けてきた優等生の日本は、政府からの圧力でモスクワ五輪をボ
イコットする。しかし、その苦渋の決断は、日本スポーツに抜けな
い棘となって刺さったままだ。

 ソウル五輪後のJOC独立は選手強化をJOC独自の資金力でな
し、かつ体協からも独立することで、モスクワボイコットを二度と
起こすことのないようにするというオリンピック運動への意思表明
が包含されていたのである。

 1989年の独立を果たした新生JOCが、二本柱としたのがオ
リンピック運動と選手強化であったのはその事による。しかし、そ
の後の歳月は、モスクワボイコット以前に心を戻してしまったよう
だ。2020年東京五輪が決定したのだから、国を挙げての選手強
化に取り組むべきであるという主張が大手を振るう。

 新たにJOC理事になった元選手たちも何の疑問も感じることな
く無邪気にスポーツ省設置を呼びかける。しかし忘れてはならない
のはもう一方の五輪精神。国内オリンピック委員会は(NOC)は
自律し、オリンピック憲章を妨げる政治的、法的、宗教的、経済的
圧力などに対決しなければならないと五輪憲章が言っていることだ。

 ロンドン五輪がメダル総数で日本選手団歴代1位となったという
ことで、大騒ぎをした。しかし、金メダルは7個。金メダル1桁の
呪縛は解けていない。だから、スポー省の設置をスポーツ界は訴え
続ける。それが唯一の方法のように。そうなった時、どのような国
民を生み出すのか少しでも考えて欲しい。

 スポーツ省設置に頼る心は、やがてスポーツ界への政治介入に対
決できない心であることを証明することになるだろう。それは、モ
スクワボイコットのあの強烈な屈辱を忘れてしまったスポーツ界に
またきつい「倍返し」となるかもしれない。

(敬称略)

2013年9月29日                                                              明日香 羊 
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編集好奇
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 安倍総理がプレゼンテーションでIOCに約束した「東京五輪は
オリンピックムーブメントに寄与する」を本気で実行するためには、
憲法第九条とオリンピズムを戦略的に展開することではないかと密
かに思っています。

 一昨日の日刊ゲンダイで「スポーツ庁、スポーツ大臣と浮かれる
日本スポーツ界」という記事に私のコメントも載りました。今回の
スポーツ思考は、その意味を補足するものでもあります。

 モスクワ忘れるべからず!です。

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  考?ご期待
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 次号はvol.296です。 
  
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