パリ五輪はウクライナ戦争を止めることができるか? 〜IOCは中庸を求める〜

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パリ五輪はウクライナ戦争を止めることができるか?
〜IOCは中庸を求める〜

国際オリンピック委員会(IOC)がロシアとベラルーシの選手の国際大会参加への道について勧告を更新した。3月30日に終了したIOC理事会の討議の結果を集約したものだ。「中立の立場での参加を認めるように」がその主旨だが、ロシアもウクライナも政府レベルで反旗を翻した。一般の報道ではIOCの真意が伝わっていないようなので、今回は、IOCの勧告を私訳して、綴りながら、オリンピズムの求める「スポーツで平和な世界を創る」という理想を紐解いていこうと思う。引用が多いので長文になるが、お許しいただきたい。

IOCは3月31日に2023年2月上旬に発行した「ロシアとベラルーシの選手が国際競技会に参加することについてのQ&A」を更新し、逐次このQ&Aを更新し続けることを公式サイトのフロントページで発表した。

最も留意しなければならないポイントは、この決定がパリ五輪への参加についての決定ではないことで、それについては時宜を見て決定されるということ。

以下、本件についてのIOCの勧告について私訳する。

ロシアとベラルーシのパスポートを有している選手が国際大会に出られるような調和的な解決方法を探して欲しいというオリンピック運動のステークホルダーの要望に応えるべく、IOCは議論を重ねてきたが、現時点でIOCは下記のとおり勧告する。しかしこれは各国際競技連盟(IF)が自己裁量によって拒否できることを前提とするものである。

1.ロシアとベラルーシのパスポートを持つ選手は、個人の中立的な選手として競技しなければならない。
2.ロシアとベラルーシのパスポートを有する選手の団体参加は考慮されない。
3.戦争を支持する選手は競技することはできない。戦争を積極的に支持する役員はエントリーすることはできない。
4.ロシアあるいはベラルーシの軍隊や国家安全保障機関と契約している選手は、競技することはできない。同じく役員もエントリーすることはできない。
5.他の選手と同様に個人の中立的な選手は反ドーピング条件を守らなければならず、特にIFの反ドーピング規定を守らなければならない。
6.ロシア並びにベラルーシの国家及び政府の戦争に対する下記の制裁は未だに有効である。
a.ロシアやベラルーシにおいてIFや国内オリンピック委員会(NOC)が主催あるいは支援するいかなる国際競技大会も開催できない。
b.国旗、国歌、色などロシアやベラルーシを示すものは、いかなる競技会やスポーツ会議ではあらゆる会場において許されない。
c.ロシアとベラルーシの政府や政府関係者は国際競技大会や会議に招かれることができないし、資格認定されない。

以上はパリ五輪、ミラノ・コルチナ冬季五輪の資格認定ではなく、それについては時宜を見て、IOCが判断を下す。その場合、通常の五輪予選などの制約は関係ない。IOCはIFが実施する免除申請を注意深く観察し、その結果によってパリ五輪、ミラノ・コルチナ冬季五輪へのロシアとベラルーシの選手の五輪参加を見極める。

以上がIOCの勧告である。あくまでも勧告である。選手が所属するのはそれぞれの競技のIFであるので、その最終的決心はIFに任されざるを得ない。それぞれのIFの判断でこの勧告に従い、国際競技会を運営する状況を冷静に観測しつつ、IOCはパリ五輪、そしてミラノ・コルチナ冬季五輪の参加資格について結論を出すというものだ。

これについて、いくつかの国の政府関係者が反論を表明している。IOCはその反論についてQ&Aで下記のとおり見解を述べている。

NO RUSSIA 2023-04-02 15

〜欧州政府のIOCの勧告についてのネガティブな反応について〜

IOCは失望している。オリンピック運動の大多数の意見やスポーツの自律を尊重しない政府があることに。スポーツの自律は多くの国々から求められたものであり、国連や欧州連合によって表明された数多くの演説によって称賛されたものである。

IOCは失望している。我々が相談電話で日々直面しているダブルスタンダードの問題にそれらの政府は対応しない。

世界に起きているその他の70にものぼる戦争、紛争、そして危機を抱える諸国にいる選手の参加について、彼らが一度でも態度を表明したのを見たことがない。

IOCはさらに失望する。国連人権理事会から任命された二人の特別報告者(*)の明徹な声明を完全に無視していることに。いつもは人権尊重を強固に主張しているにも関わらず。

国連人権特別報告者によれば「自分が好きな人やその行為に賛同できる人の人権を認めるというのが本意ではない。本当の意味はパスポートによって差別されない権利を誰もが持っていることだ」

オリンピック運動からの考察と反発が明らかに示しているのは、これらの政府の政治的介入がオリンピック運動の一致団結を強化してきたという事実だ。

全てのオリンピック運動賛同者は下記のことを明らかにした。選手がどの競技会に出場できるかどうかを決定するのは政府ではないこと。もしそうであれば我々の知る限り、それは国際競技の終わりということだ。全てのオリンピック運動賛同者はこのことを非常に憂慮している。

IOCは206のNOCを代表する五大陸の各大陸NOC連合会長から署名入りの書簡を受け取っている。それはIOCの勧告を歓迎するものであり、国際競技があらゆる国の選手を保証するスポーツの自律を守るものである。

33の夏季オリンピック競技を代表するASOIFは公的機関のスポーツへの影響を回避することを強調した。

アジアとアフリカの選手委員会は勧告を歓迎し、IOCがさらに前に進むことを求めた。

IOCはもちろんロシアからの反応も知っている。ロシアオリンピック委員会は、「発表されたロシア人の国際競技会への復帰のパラメーターと基準は絶対に受け入れられない。IOC理事会の決定は、オリンピック憲章と国連憲章の基本原則を深刻に侵害する茶番劇以上の何ものでもない。」と語った。

ロシアではIOCの勧告を発表する前から、IOCはすでに「アメリカ合衆国の代理店」と呼ばれていた。

ウクライナの代表もIOC勧告を受け入れ難いと宣言した。そしてIOCを「ロシアの味方」と表現した。IOCが当初から強烈に非難しているロシア、その味方と言っているのだ。

IOCはウクライナの選手もオリンピック共同体も先例のないやり方で支援している。そしてこの支援は大きくなり続けている。

対立する両者が満足していないという事実が示しているのは、両者が理解と平和へ貢献するべく進むことができる基盤をIOCが見つけていることである。

全オリンピック運動は平和的に競い合うことで世界を一つにするという価値に寄り添っているのだ。

以上がIOCの勧告への批判についての反論である。

人類始まって以来、争いは続いてきた。それは自らの安定を求めるためであった。その安定を普遍化していけば、同じように安定を求める人々と共に安心な大地を作っていけないかと考える。オリンピックの休戦思想は四年に一度は武器を捨てて、同じルールの下、身体と精神の活動を通じて競い合い、相互の尊厳を認め合うという哲学に発展した。それがオリンピズムの基本である。ポイントは全ての基本にスポーツを置くということである。

オリンピック休戦を破ってウクライナに戦争を始めたのはロシアであり、それを援護するのがベラルーシであれば、スポーツはロシアとベラルーシに制裁を与えなければならない。しかし、スポーツを愛しそれに命を賭けている選手がスポーツするという行為を止めることはオリンピズムに反する。彼らのスポーツ愛が全てを超えていたとすれば、彼らが同じルールの下で競いあうことが人と人とを繋ぐエネルギーとなるからだ。そのエネルギーとは、国を超え、人種を超え、宗教を超えることができるはずだ。

ポーランドやバルト3国(リトアニア、ラトビア、エストニア)、そしてウクライナが27日に出した声明文はロシアとベラルーシの選手への処分を解除する『理由は一つもない』として、この両国の五輪出場禁止を継続するよう改めて求めているが、IOC勧告がロシアとベラルーシの国家に対してのものであることを理解しなければならない。

ロシアとベラルーシの選手が戦争を支持せず、自らのスポーツが世界平和構築運動に資するものと言うのであるならば、そこに相対立する国を超えるエネルギーが生まれる場があるだろう。

一方で、ロシア五輪委員会(ROC)の「受け入れがたい。国籍に基づく差別だ」と反発しているようだが、それこそオリンピズムの無理解と言わなければならない。オリンピック休戦を破った自国の政府を嗜めるのがその国のオリンピズムを守るべきNOCの使命であり、その実践がオリンピック運動ということだ。むしろ大統領府報道官が「われわれはあらゆる手段で選手の利益を守る。選手の利益保護のため、引き続きIOCと対話していく」と述べたことの方に明かりがある。

このままの状況であればロシア、ウクライナ戦争は終わりが見えないままである。オリンピックに選手が出るために国家は何をしなければならないか?それをIOCは突き付け続けなければならない。スポーツを基軸にすれば選手を中心に置くことになり、そのために戦争終結へのアプローチが始まるだろう。戦争に基軸を置き、戦争を止めない限りロシアとベラルーシのパスポートを有する選手は国際競技会に出られないとなれば、戦争当事国の政府はスポーツよりも政治を上に置き、戦争を終わらせようとはしないだろう。

ロシアからもウクライナからも非難されるIOCの中庸こそ、戦争終結への唯一の手段と言えるのではないか。

この戦争終結にはスポーツからのアプローチが必要であり、それは水面下で動き出しているのだ。そのための基軸はIOCがどちらにも偏らず、「選手のため」を貫くことだ。それが真の選手第一主義である。ウクライナにはブブカがいて、ロシアにはウスマノフがいる。

(敬称略)

註:人権特別報告者(じんけんとくべつほうこくしゃ)
SPECIAL RAPPORTEUR ON THE SITUATION OF HUMAN RIGHTS
国連人権理事会により任命された個人の独立専門家で、特定の国における人権状況やテーマ別の人権状況について調査、監視、公表を行います。通常5名からなるワーキンググループと合わせて「特別手続き」と総称されます。いずれも個人の資格で任務につき、中立的に職務を遂行できるよう給与その他の金銭的報酬を受けません。特別手続には、国別とテーマ別の2つの手続があります。(国際連合広報センターのサイトより)

2023年4月2日

明日香 羊

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編集好奇
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スポーツ思考はスポーツ的に思考することを目指しますので、説明不足と言われることがあります。今回は詳らかを目指しIOCの言い分を私訳して掲載しました。お役に立てば幸いです。
また、4月1日からYouTubeChannel「春日良一の哲学するスポーツ」を始動しました。
こちらでは五輪の基礎知識から語って参りますので、どうぞご愛顧のほどをお願いいたします。第一話は「五輪汚職・ロシア排除を考えるオリンピックの基礎知識前編」です。
https://www.youtube.com/watch?v=fs_kK9_ob1E

『NOTE』でスポーツ思考
https://note.com/olympism

【ダイヤモンドオンライン】
東京五輪汚職で「商業主義化=悪」の世論に異議あり、元JOC職員が見た真因とは
https://diamond.jp/articles/-/311042

北京五輪の「オリンピック休戦」をむげにしたロシア、
IOCバッハ会長の葛藤
https://diamond.jp/articles/-/298005

【ゲンダイデジタル】
【特別寄稿】IOCバッハ会長は8年前、高橋治之元理事の“追放”を組織委に求めていた
https://www.nikkan-gendai.com/articles/view/sports/310969

特別寄稿!
「逮捕された高橋治之元理事には9億円 あぶり出される東京五輪招致の闇」
https://www.nikkan-gendai.com/articles/view/sports/309953

短期連載(全3回)
「東京五輪にメス!スポーツマフィアを生んだJOCの過ち」
https://www.nikkan-gendai.com/articles/columns/4389/495

短期集中連載(全5回)
「IOCへの諫言 五輪憲章から矛盾を糺す」
https://www.nikkan-gendai.com/articles/columns/4322/495

日本と世界の重要論点2022↓
【Daiamond Online】
東京2020が日本人の記憶に残らない理由、北京に引き継がれた不信感と意義
https://diamond.jp/articles/-/291658

【Forbes Japan】
「命と引き換えにするほどの価値があるのか議論すべき時」
https://forbesjapan.com/articles/detail/39575
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考?ご期待
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次号はvol.476です。

スポーツ思考
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日刊ゲンダイ連載全100回
「実践五輪批判〜20年東京五輪これでいいのか?〜」
https://www.nikkan-gendai.com/articles/columns/3625/

NHK大河「いだてん」を思考すると題して始めたブログ
「純粋五輪批判」
https://genkina-atelier.com/gorin/

哲学者カントの純粋理性批判と実践理性批判から拝借
「実践」では実際に五輪がオリンピズムを実現しているのかを批判
「純粋」では大河を触媒にオリンピズムの本当を解説

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