ウクライナ戦争を止める秘技 〜ロシア選手のパリ五輪開会式入場行進〜

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ウクライナ戦争を止める秘技
〜ロシア選手のパリ五輪開会式入場行進〜

国際オリンピック委員会(IOC)は去る3月19日と20日にローザンヌで理事会を開き、来るべきパリオリンピックの選手参加資格について幾つかの重要な決議をした。中でもロシアとベラルーシの選手の開会式入場行進を認めないことを決めた。これには私自身も驚いた。

2022年2月24日、ロシアはウクライナに侵攻し、ベラルーシはそれを支援した。オリンピック休戦を破った。IOCはロシアとベラルーシに制裁を発令、当該国を代表する選手の国際大会参加を認めないことを骨子とした。

終戦の兆しも見えない状態でのパリ五輪の参加資格については衆目の集まるところだったが、IOCはロシアとベラルーシの選手が国を代表して参加できない中で、中立の立場で参加する条件で個人の参加資格を提供することになる。彼らはIndividual Neutral Athletes (AINs)、「個人の中立選手」と呼ばれ、彼らのために特別に国旗と国歌に相当するものも新たに制作された。にもかかわらず開会式入場行進を認めなかった。

IOCの説明によれば、「1992年のバルセロナ五輪の独立参加選手団の扱いに習った」というのだが、この時はユーゴスラビア紛争によりユーゴスラビアオリンピック委員会が制裁下にあったため選手参加の救済策として個人参加を認めたものである。

このIOC理事会の決定に対してロシア政府は激怒し、外務省マリア・ザハロワ(Maria Zakharova)報道官が、「IOCが定めた原則からいかに遠く離れ、人種差別とネオナチズムに陥っているかを示している」ものだと反発してきた。論敵をネオナチとして非難するのはロシアの常套手段だが、この場合、中立選手として認められた参加者のことを考えると入場行進に参加させるのも一理であるように思えた。

独立参加選手は国旗の代わりに五輪旗、国歌の代わりにオリンピック賛歌を使う慣わしだったが、AINには独自の旗と歌が与えられているからだ。

しかし今回のパリ五輪開会式はセーヌ川を船で入場するという画期的なものであり、ロシアとベラルーシの選手が堂々と乗船する晴れの姿を侵攻されたウクライナの人々やロシアのウクライナ侵攻に反感を持っている人々が素直に歓迎できものか憂慮される。

IOCはジレンマの中にあった。そして前例踏襲を選んだ。

ここに選手参加資格条項(Eligibility Code)という補助線を敷けば問題解決の糸口が見える。このエリジビリティコードは1990年版オリンピック憲章のキーワードだった。かつてはメディアでも「第26条」と取り沙汰されたものだ。当時はプロフェッショナルな選手がオリンピックに参加できるかどうかの鍵を握る条項であったからだ。しかしここにはそれだけではなくて選手が守らなければならないオリンピック憲章や自らの属する国際競技連盟の規定への遵守が定められていた。これを根拠に選手が五輪の参加エントリーをする際にはエリジビリティコードの宣言書に署名をしなければならなかった。

今のエントリーでこれに相当するのが参加承認事項(Conditions of Participation)である。そしてパリオリンピックの同事項には東京五輪2020にはなかった「オリンピックの平和の使命への同意」が明文化されている。

私はロシアがオリンピック休戦を破った時に参加資格条項の復活とそこに「戦争反対」への意思表明を盛り込むことをIOCに提案していた。その案はパリ五輪参加資格条項に「IOCとオリンピック運動が目指す平和促進の使命」への従順に形を変えて現実化していた。

そしてこれはパリ五輪に参加するロシアやベラルーシの選手も署名しなければならない事項である。ならば、彼らは明らかにロシアとベラルーシのオリンピック休戦を破った戦争に反対表明しているのであり、その選手がAINの旗の下に入場行進のボートに乗船するのは特別な意義あることになる。

バッハとプーチン

ロシア政府に対してはそのことをきちんと伝えるとともに入場行進の際には彼らがオリンピックの使命を担った平和の戦士であることを世界に堂々と伝えればいい。それがオリンピック運動の果たすべき役割であることを人々が知ることになる。

このところロシアのナショナリズムはIOCに牙を向けている。特にバッハ批判は感情的なものになっていて、IOC広報官マーク・アダムズ(Mark Adams)曰く「ロシアから非常に攻撃的な発言が出ているのを目の当たりにしている。会長と彼の国籍(ドイツ)、そしてホロコースト(Holocaust、ユダヤ人大量虐殺)を結び付けているものがあり、これは完全に違法である。全く容認できないもので、新たな低水準に達した」とのことだ。

ロシアはオリンピズムの踏み絵を踏んだ。その根本的誤謬に気づきスポーツをナショナリズムから解放しない限り、国としての五輪参加はできないだろう。ネーション(国家)を認めつつ、国家を超えるというオリンピズムの思想に到達できないからだ。

だからこそIOCは毅然とした態度でロシアとベラルーシの国籍に関係なく、彼らを開会式入場行進に参加させるべきだろう。パリ五輪参加資格承認事項に署名したAINの選手として。それは彼らを平和の使者として公認することになる。

それがウクライナでの戦争を休止する秘技の一つである。

(敬称略)

2024年3月28日

明日香 羊
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編集好奇
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ゼレンスキー大統領も疲れてきた。プーチン大統領も本音では停戦を望んでいる。そのためには媒介者がいる。元外交官の佐藤優氏は「日本が」と言う。殺傷能力のある武器を支援していないG7の中で唯一の国、核兵器の恐ろしさを知る唯一の被爆国。私はそこにもう一つ付け加えよう。あの世界を揺るがすコロナ禍で平和の祭典を頑張って開いた国。オリンピック休戦を天下の宝刀として上手く立ち回れればと願う。

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