レミゼラブル 〜パリ五輪日本選手団の表敬訪問〜

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レミゼラブル
〜パリ五輪日本選手団の表敬訪問〜

パリオリンピックで金メダル20個を含む45個のメダルを獲得した日本代表選手団はメダリスト66名が8月13日岸田首相を表敬訪問した。翌14日には文部大臣、スポーツ庁長官を表敬、解団式に臨んでいる。なんとも多忙なチームジャパンである。
首相表敬、大臣表敬と当たり前のように報道されているが、この多忙さ、私から見ると無駄な動きを選手たちが強いられているようにしか見えないのだ。

 これがオリンピック精神に反した行動であることを誰も指摘しない。オリンピック憲章は「オリンピック競技大会は個人種目または団体種目での選手間の競争であり、国家化の競争ではない」と唱えているではないか。

 選手の五輪における活躍は選手個人のものであって日本国家のものではない。日本を代表する選手へ同じ日本人である国民が応援するのは自由であり、それによって日本人としての誇りや元気をもらうのはそれぞれの勝手である。応援してくれた国民一人一人に選手が感謝を表すのは自然なことだが、それをなぜ首相に報告しにいかなければならないのか。

 尾県貢選手団長は首相に向かってメダル獲得数と入賞者数を報告し、日本政府や日本スポーツ振興センターなどのおかげと感謝したのだ。これではまるでチームジャパンは国家の力で良好な成績を収めたので、国家権力の代表である首相にメダリスト66名を引き連れて御礼に参りましたと言っている。選手強化費を政府に願い出て、それを得ているのは事実だが、それは日本オリンピック委員会(JOC)がそうしているのであって、メダリスト全員を引き連れてお礼参りさせるというのは筋違いである。

 選手一人一人が自らしている努力をサポートするのがJOCの役目であり、JOCが国から補助金交渉をするのは当然だが、頼んだ覚えもない選手に「君たちがメダルを取れたのは首相や大臣のおかげだ。だから感謝の意を表さなければならないのだ」と強制的に表敬に連行するのは不条理である。
 しかもメダリストだけを連れて行くのは補助金の結果を出したのはメダリストだけであり、首相から祝いの言葉を得られるのはメダルという結果を出したものだけと言っているのと同じだ。

選手団解団式 2024-08-15 23

 JOCに言われればメダリストたちは何の疑問もなくお仕着せのユニフォームに身を包んで首相官邸に馳せ参じるのだろうが、その選手の代表として柔道金メダリストの阿部一二三はこう挨拶した。

「チームジャパンは一歩踏み出す勇気を更なる高みを!をコンセプトに自分だけの競技ではなく全競技の一体感を持って挑み、自分の最高のパフォーマンスを発揮することを心がけました。結果、私は二大会連続の金メダルを獲得することができました。私自身の一歩踏み出す勇気は家族だと思っています。家族がいつもそばにいてくれて、本当に苦しい時に温かい言葉をかけてくれていつも背中を押してくれるのが、僕自身の一歩踏み出す勇気になったなと思っています」

 団長やJOCが「お国のおかげでメダルが取れました。感謝の意を表すべく、参上しました。みんな頑張ったので総理からお言葉をいただきたい」と言っているのとはレベルの違う表明である。私の努力を支えてくれたのは国でも国民でもなく、家族だと言っているのだ。

 スポーツは個人が自由意志に基づいて行う身体文化活動である。そしてその努力を支えるのはまさにその個人のすぐそばにいてその個人を愛してくれる存在なのだ。それは決して国家ではない。

 阿部は「これからもオリンピアンとして、そしてメダリストとして誇りを胸にオリンピックムーブメントの推進に寄与していきたいと思います」と締めた。立派である。さらにメダルを取るとか国に尽くすとかではなく、オリンピック運動を担うと言ったのである。その中にアスリートが生きるべき道の全てを端的に語っている。
 決して高ぶることなく、しかし己のあるべき姿を主張している。

 選手第一主義をJOCは貫かなければならない。彼ら選手を讃え敬うべきは首相であり、国なのだ。首相や大臣が選手たちの実績を讃えるのならば、むしろ彼らが選手団を表敬すべきなのだ。 JOCは今やっていることを正しいと思い込んでいる。首相も選手と話せて嬉しそうだった。メダルという結果に問題がカモフラージュされている。レミゼラブルである。
 
(敬称略)

2024年8月15日

明日香 羊
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編集好奇
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今日は終戦記念日でした。国のためにと自らの命を失うのが当たり前であった時代。スポーツはあくまでも自分のため。自分がやりたいからやる。それは個のものだが、それがオリンピックという磁場に入ると国のパワーをも動かすことができる。個が個を追い求める中で、近くの人を動かし、それがさらに次の人に伝わり、やがて国民が共感する。スポーツが戦争を超える論理である。

開会式について五輪アナリスト春日良一が分析しました。Forbes Japanをご覧ください。
https://forbesjapan.com/articles/detail/72709

「7.26パリ五輪開幕!徹底、実践五輪批判」が日刊ゲンダイで毎週木曜日に連載されています。オリンピックと平和について激論しております。ご高覧いただければ幸いです。
https://www.nikkan-gendai.com/articles/columns/4728/495

YouTube Channel「春日良一の哲学するスポーツ」は下記から
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『NOTE』でスポーツ思考
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