ウクライナとロシアの戦争停戦交渉が忘れていること 〜この戦争はオリンピック休戦を利用した〜

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ウクライナとロシアの戦争停戦交渉が忘れていること
〜この戦争はオリンピック休戦を利用した〜

トランプは大統領就任前から「自分が大統領になれば48時間以内にウクライナでの戦争を停止させる」という意味のことを発信しており、パックスアメリカーナのパワーポリティックスが現在の世界の分断状況をクリアしてくれるような錯覚を世間に抱かせた。

トランプ大統領就任はイランを抑止し、シリアの独裁を解体し、イスラエルとハマスのガザ紛争の停戦がスタートしたことを見ればかくなる期待を抱くのも宜なるかな。

しかしウクライナとロシアの停戦は簡単ではないようだ。世界から戦争をなくすための運動として、何が有効なのかという文脈でずっと考えている私だが、20世紀の知恵と言えるフロイトとアインシュタインの「なぜ人間は戦争をするのか」の往復書簡が辿り着いた細やかな結論は「文化活動」であった。

130年前に創設された国際オリンピック委員会(IOC)は非営利団体で非政府組織であるという本性を保ち、スポーツという身体文化活動を唯一の基軸とし、政治から一線を画することで、国連という政治意思の調整集合体には成し得ない世界平和構築への装置として、機能するべきであると私は思っている。

そこに古代ギリシアのオリンピア祭が叶えた四年に一度の休戦の思想を理論武装することで、ただただスポーツの頂点を求める祭典を定期的に開催することで、人間の意図を超えたところで一時的「休戦」が繋がって半永久的非戦争状態を実現するという仮説を私は立てた。

故に多くの理性と権利擁護思想がオリンピックはもっと反戦運動であるべきで、政治的主張をすべきであるという考えには賛同していない。スポーツがスポーツのためにスポーツが純然と行われる努力だけが求められるべきだ。そのために社会が尽力するように機能していく動きが必要である。

その意味でウクライナとロシアの停戦について、世間が全く忘れてしまっていることが重要なのだ。それはロシアがオリンピック休戦を破って、ウクライナに侵攻したという歴史的事実である。オリンピズムに反する行為をしたことに対して世界がその咎をロシアに対して糾弾することである。

プーチン大統領は実は柔道をこよなく敬愛し、オリンピックの信望者であった。2001年のロシア大統領になったばかりのプーチンがモスクワにIOC総会を招き、オリンピック運動への共鳴をしたことを改めて記す。その総会でIOC会長はサマランチからロゲに代わり、2008年の北京五輪開催が決まっている。

Putin with Olympic Rings 2025-02-28 10

そして、スポーツへの信仰を告白したプーチンにIOCはオリンピックオーダー金賞を授与したのだ。オリンピック運動に功労した人々に与えられるオリンピックの勲章であるが通常は銀のオーダーである。金賞はIOCが与える最高位勲章である。プーチンの喜びはどれほどだっただろう。
その6年後、プーチンは2014年冬季五輪のソチ開催権を獲得した。
一方、幼い頃に出会った柔道に心惹かれたプーチンは鍛錬を重ね、柔道を生涯スポーツとして続けていた。2000年に「講道館柔道6段」を授与された時には、「まだ私には学ばなければならないことが」と謙虚だった。

プーチンがウクライナ侵攻を実行した時、IOCはロシアへの制裁としてプーチンのオリンピックオーダー金賞剥奪も表明した。当然とは思いつつも、私にはなぜウクライナ侵攻中止への交渉に利用しないのかという疑問も浮かんだのも事実だ。

プーチンがオリンピックを大切にしようとしていることは事実であり、彼が彼なりにオリンピズムを学んでいることも確かなのだ。

プーチン流の解釈では、国連の決めたオリンピック休戦よりも大事なのは、古代オリンピア祭から受け継いだ五輪休戦である。北京冬季五輪には開会式にも参列し、開催国元首、習近平とも対談して五輪開催を「祝」した。そして閉会後4日目にウクライナに侵攻したのだ。オリンピックの成功を見届けた。パラリンピック開催まで9日あった。この間にウクライナ戦争を終結させるつもりだった。オリンピック休戦で世界が武器を解除している状況で、攻め込み、パラリンピック開会の時には平時の状況を作る。本来の五輪休戦は守っている。この作戦が成功したのが、2014年のソチ冬季五輪の時であった。クリミア占拠である。IOCが文句を言う前に政治的決着をつけてしまったのだ。

プーチンはオリンピック休戦を自らの政策を実現するためのツールとして巧みに利用してきたことになる。IOCがパリ五輪からロシアとベラルーシの選手参加に制限を加えた時、プーチンは「IOCはオリンピック理念を理解していない」と言った。オリンピズムはあらゆる差別を超えて全ての人々にスポーツへのアクセスを主張しているからだ。そして、自らフレンドシップ大会を開くと豪語した。彼はオリンピズムの急所をついてくる。しかしオリンピズムも強固だ。政治的友情で競技するスポーツはスポーツではない。フレンドシップ大会は実現できなかった。

ウクライナとロシアの停戦が今、トランプ主導で動いているように見え、日本のメディアも識者諸氏もその視点でしか見ていないが、停戦の基軸にオリンピック休戦を破ったロシアを置けば視界が変わるだろう。

「オリンピック休戦」を実現することだ。少なくともプーチンはバッハに詫びを入れなければならないし、それによって来年のミラノコルチナ冬季五輪での休戦実現に動くことができる。この停戦を阻む本質はゼレンスキー大統領とプーチンのプライドである。それを損なうことなく握手できる状況を作るには、「オリンピック休戦実現のために」というオブラートである。ゼレンスキーはパリ五輪開会直前にマクロンが「オリンピック休戦」を勧めたが拒否した。今なら彼の心の垣根も低くなっているのではないか?

新たなIOC会長にはプーチンにもゼレンスキーにもかくなる交渉のできる胆力が期待される。

(敬称略)

2025年2月28日

明日香 羊
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編集好奇
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充実した海外旅行から帰還して全く見ていなかったYouTubeのニュース解説番組やBSのそれを怒涛のように頭に入れた。
識者諸氏の饒舌な解説もメディアのシナリオも全てトランプ主演。ここを変えない限り世界平和は見えてこない。
来週月曜日発売の日刊ゲンダイではIOC会長候補者の「平和」を採点します。
https://www.nikkan-gendai.com/articles/columns/5241

「2024パリ大会 徹底、実践五輪批判」日刊ゲンダイ連載、全18話
https://www.nikkan-gendai.com/articles/columns/4728/495

Forbes Japanで開会式について五輪アナリスト春日良一が分析。詩的スポーツ思考。
https://forbesjapan.com/articles/detail/72709

YouTube Channel「春日良一の哲学するスポーツ」は下記から
https://www.youtube.com/@user-jx6qo6zm9f
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『NOTE』でスポーツ思考
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