vol.287 オリンピズムを忘れた招致活動 ~原点に戻る勇気~

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  週 刊 ス ポ ー ツ 思 考 vol.287
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オリンピズムを忘れた招致活動
~原点に戻る勇気~


 
 イスタンブールで反政府デモが起きたニュースが頻繁に伝えられ
た今日一日。

 コメントは「2020年五輪招致に影響か?」であった。日本の報道
の後ろ側に「これで東京五輪が有利になった。もうイスタンブール
はだめだ」的な隠れた言葉が伺える。

 5月30日、サンクトペテルブルクでのプレゼンテーションを上手に
やってのけ、先のイスラム批判発言も乗り越えた!という評価がマ
スコミ各媒体を駆け巡った矢先だけに、本当に五輪招致が東京に有
利との気分になるところである。

 その「空気」に水を差すわけであるが、これらの報道も、招致へ
の奏功もまったく関係ない!というのが思うところだ。

 もともとオリンピック競技大会はオリンピズムの現実化のための
手段である。政治、宗教、経済、国境、あらゆる垣根を超えて、ス
ポーツが人と人を結びつけるダイナミズムを持ち、それゆえにこそ、
世界の動向を平和的に変革できるツールであるというのが、オリン
ピックの理念、すなわちオリンピズムなのである。

 そうであれば、今回起きたデモは、まさにオリンピズムが克服すべ
き課題であり、それ故にこそ、今「オリンピックが必要なのだ」は
イスタンブールになるのである。(東京五輪招致の標語「今、ニッ
ポンにはこの夢の力が必要だ」の裏返しになるが)

 オリンピック運動がそのミッションを捨ててしまえば、ただの大
総合体育大会に終わる。それでいいのかどうかは、オリンピズムを
担うべきIOCが背負うべき課題である。

 天安門事件のあった北京が、2008年の五輪を開催した。事件の起
きた当時の招致は叶わなかったが、そこから五輪運動への帰依を幹
部たちが密かに表明したからこそ、招致がかなった。

 イスタンブールがその招致アピールのとおり、東と西の架け橋を
演じるというならば、まさに今、反政府運動の標的となっている政
府自身が、五輪運動への帰依を表明しなければならない。

 今、もし、それができればこのデモは招致の成功の逆転を演じる
きっかけとなるかもしれない。

 100名のIOC委員も人の子であるから、デモが行われているような
国には行きたくないという本音があるかもしれない。しかし、彼ら
は五輪大使としてのミッションを有している。そして、IOCから「諸
国に派遣されている」委員の派遣先もまた、デモの多いところだっ
たりする。

 IOCでのプレゼンテーションは、お遊戯会でも学芸会でもないので
ある。完璧にトレーニングされた猪瀬知事が見事な英語のスピーチ
をしたことで、マスコミはやんやの喝采である。「良くできた。こ
れだったら立派、どんな都市にも負けてないよ。うまかったよ。お
利口、お利口」

 まるで、幼稚園の学芸会に参加した我が子の演技を褒めるが如き
だった。

 プロのコーチを英国から雇ってまで努力を重ねたプレゼンテーシ
ョンの結果を挙って「お上手、お上手」という次元には、デモが民
主主義(デモクラート)の表現であることも理解の域を超えている
かもしれない。

 そしてそのデモクラシーを超える思想がオリンピズムにあるとい
うことが、五輪哲学の原理である。

 かようなマスメディアに向かってオリンピズム、真の五輪招致の
意味を訴えることは虚しく思えるが、少なくとも、このデモをいい
ことに、招致有利を思うのは、止めていただきたいと思うところ。

 五輪を招致する側も、五輪都市を選ぶ側も、自らの活動が、オリ
ンピズムの思想を伝えるためのものであるということを真摯に思わ
なければならない。まさに世界平和を目指してスタートしたIOCの
原点に戻る勇気が必要だ。

 東日本大震災も、欧州経済危機も、そしてイスタンブールのデモ
も、その警鐘に思えるのは私だけだろか?

 残念ながらそうだろう。

(敬称略)
 
2013年6月3日

                         明日香 羊
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編集好奇
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 今号の筆を執るモチベーションとなったのいは、ベテランジャー
ナリストからのお電話。
 「全く情けないよ。トルコでデモが起きたのを喜ぶような騒ぎ
じゃないの。何を考えてるんだろうな」
 フェアプレーも何もない。あるのは勝利だけ。
 長年スポーツを愛し、クールで熱い記事を綴ってきた方の言葉
だけに触発されました。
 猪瀬さんのスピーチ、立派だったのでしょうが、それは招致の
ミニマムギャランティをパスしただけなのです。
 
 招致活動も闘いの中に相手を認める五輪運動なのであります。
   
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  考?ご期待
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 次号はvol.288です。  
                       
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