vol.296 軸なきゴール ~必要なのは日本オリンピック委員会の顔だ~

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  週 刊 ス ポ ー ツ 思 考 vol.296
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  Sport Philosophy 

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 軸なきゴール
 ~必要なのは日本オリンピック委員会の顔だ~
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 寂しい。強烈に寂しい。世間は東京五輪開催に湧き、プレゼンテ
ーターが脚光を浴び、果ては五輪コンサルタントといういわば影の
存在が賞賛を浴びる。安倍総理のスピーチが奏功したとの声も聞く。
高円宮は別格として、それぞれのプレゼンテーターに拍手喝采の日
々が続く。それはそれで結構。しかし、本来このプレゼンテーショ
ンを取り仕切るべき日本オリンピック委員会の顔が見えない。

 それが寂しい。

 東京五輪招致の成功は、「国を挙げて」の様相にあった。と言わ
れても仕方がない。しかし、冷静に思考を巡らせて欲しい。五輪を
招致するのは都市だが、それを選定しそれを誘導するのはその国の
オリンピック委員会なのだ。

 長野五輪招致の時、招致委員会は猪谷IOC委員のアドバイスで
国際的な人物を長野招致委員会に作り、ミスターナガノと呼称し、
招致活動をスタートした。

 最初はそれで良かったが、次第に襤褸が出る。スポーツ世界とい
う磁場はその場に来る人間が本物かどうかを見極める。そうでなけ
れば弾かれる。直ぐに批判が出る。「JOCが見えない。JOCは
長野五輪招致に関わっているのか」

 そして、JOCは私を渉外参事として、長野五輪招致委員会に出
向させた。聞こえはいいが、実は誰もやる気のない仕事を若手の国
際好きに任せたのだ。当時の体協内JOCにとって国際問題は、本
筋から離れた問題。大事なのは日々のやりくりと年次行事の消化だ。

 だからどこかの都市が五輪をやりたいと手を上げれば、その都市
の意向に任せ、問題があった時だけ顔を出す。ともかく手を上げた
のだからうまくやってくれよ!という感じだった。

 でも受けた私はそれまでの国際渉外を通じ、日本が世界のスポー
ツ界をリードする条件と好機に数多く恵まれていたのを感じていた。
そして、1989年JOCが日本体育協会から独立するその時こそ、日
本の国際戦略を打ち出していくべき時だと思っていた。私が渉外特
命参事に任命されたのは、1990年IOC総会を成功裏に終了した一
ヶ月後、10月1日のことだった。

 以来、国際会議、五輪選手団交渉、要人来日接遇の機会を捉え、
長野冬季五輪と五輪運動の未来への布石を打っていった。奴が出て
きたなら、JOCも本気だろう。そう思わせることができた。

 招致が成功すれば、功労者が様々名乗り出てくる。昨日も、森元
首相が石原伸晃の貢献を披露し驚かせた。しかし問題は、この招致
の主導権をJOCが握っていないことだ。顔が見えるというのは、
招致委員会の役員という肩書きをもらうこととは違う。そのことを
理解しているスポーツ関係者がいかに少ないか。

 表に出ない部分でJOCがコントロールできていれば、プレゼン
テーションのありさまはそれほど大きな焦点とならない。「オリン
ピックムーブメントを発展できる機会として東京五輪をアピールで
きた。それはJOCが立候補都市、政府を教育して、オリンピズム
に導いたからだ」というコメントをJOC会長は発表できただろう。

 しかし、実際にはその会長も政府と東京都の管理下に置かれてい
たのである。

 ある国際スポーツ会議で、JOC幹部が東京五輪招致をアピール
している場面に遭遇した。「東京は安全ですばらしい都市である。
運営能力が高い。コンパクトな開催会場」などなど「いいこと」を
並べ立てた。それはJOC幹部でなくても言えることだ。国内オリ
ンピック委員会として、なぜ東京を立候補させたのか?!というこ
とを主張しなければならない。

 さて、成功した暁にすぐ着手すべきは何か。組織委員会づくりに
様々な利権や欲望が絡み、水面下で動き出しているようだ。1964年
東京五輪の組織委員会は、1959年に設立。JOC委員長(今のJOC
会長)が組織委員会会長に、JOC総務主事(今のJOC専務理事)が
組織委員会事務総長に就いている。スポーツ界が主導権を執ってい
る。

 果たして、2020年東京五輪組織委員会は誰が主導権を執るのか。
その顛末が2020年以降の日本のスポーツ界の全てを変えるだろう。
1959年設立時の組織委員会会長は、JOC委員長であった津島寿一。
彼は、参議院議員、大蔵大臣、防衛庁長官を歴任したキャリア。ス
ポーツ界の造詣も深く、1958年の第3回アジア競技大会組織委員会
会長も務めた。事務総長の田畑政治は日本水連の創設者の一人。

 スポーツ界が組織委員会の軸を担っていた。特に田畑政治には、
スポーツのためのスポーツの大会、オリンピックのためのオリンピ
ックという思想と情熱があり、政治の介入を断固拒否する心があっ
た。

 東京五輪招致は政治主導であったが、その開催準備にJOC主導が
実現できるか?

 それはスポーツ界にとってもそして日本の未来にとっても、実に
大変な問題である。

(敬称略)

2013年10月3日                                                              明日香 羊 
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編集好奇
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 消費税増税が決まり、消費すればするほど税収が増える国になり
ました。日本の英知は古来「倹約」を説いております。できるだけ
消費を少なくして、質素な生活を営む。無駄を削ぎ落とし、無我の
境地に至る。消費税増税が日本の美学を想起させます。

 今朝のNHK7時のニュースで、「東京招致成功はIOC総会直前にプー
チンに安倍総理が東京開催をお願いしたから」との報道があったと
のこと。これからも各所で招致成功の功労者が開陳されるでしょう。
しかし、本物は7年後以降でないと語れないはずです。

 いずれにしろ、今回の招致が政府主導であったのは確かですね。

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  考?ご期待
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 次号はvol.297です。 
  
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