vol.312 オリンピズムの終焉~ソチ五輪が提示する危機的な状況~

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 オリンピズムの終焉
 ~ソチ五輪が提示する危機的な状況~
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 ジャンクロード・キリーと言えば、往年の名スキーヤー。丹精な顔立ちと華麗なスキーテクニックでアルペンのプリンスだった。
ブルノーブル冬季五輪でアルペン三種目制覇の偉業は今でも記憶に深い。彼は1995年からIOC委員となり、ソチ五輪では、IOC調整委員会委員長を務め、ソチ五輪組織委員会にとってはIOCの顔であった。

 そのキリーがまだ定年に満たないのにIOC委員を辞任した。自
らIOCを辞任するなどというのは、前代未聞。様々な憶測が流れ
ている。特にIOC調整委員会委員長として、プーチン大統領と大
会運営についてやりあう中で、親密な関係を築いたと側聞するにつ
けても、今回のソチ五輪後の政治的な暗雲が脳裏に浮かぶ。

 ウクライナ情勢が混迷を深めている。ソチ五輪が成功に終わった
途端にクリミア半島へのロシアの侵攻があり、今や東部ウクライナ
はロシアの配下になろうとしている。

 オリンピックファミリーメンバーとスポーツを通じた外交で親密
な関係を築いたプーチンがソチ五輪が終了した途端にとった行動は、
まさにロシアの新たなナショナリズムの展開であった。

 オリンピック運動が創設された1894年の情勢はまさに欧州帝国主
義が蔓延ろうとしていたところで、IOCを創設したクーベルタン
男爵の発想は、まさにスポーツによる平和、帝国主義の打破であっ
たはずだ。

 プーチンがしたことは、まさにヒトラーが五輪を利用して自らの
ナショナリズムを実現したに等しい「政治的な成功」であると言
えるだろう。

 しかし、問題は、ナチズムを経験したオリンピック運動がこの時
代においてプーチンをオリンピック運動の配下に置く事ができなか
たことである。これまで、新IOC会長バッハは、プーチンがソチ
五輪以後に行った政治活動について、何のお咎めも課していない。
調整委員長のキリーはどのように指導していのだろうか?

 ここに様々な問題が内包している。これを紐解くことは容易では
ないが、端的に図式化すればプーチンはソチ五輪を利用して、自ら
のプーチニズム(プーチンによるナショナリズム)を完成させよう
としたということだ。オリンピズムによって自らの帝国主義は浄化
させて国際的に認知させたということである。あたかもベルリン五
輪でヒトラーがナチズムの国際的浄化を達成したように。

 そのことをキリーは大会開催前の段階で察知し、その責任につい
て憂慮していた。だからこそ、大会数ヶ月前からIOC会長に辞意
を仄めかしていたのだろう。

 バッハIOC会長はドイツ五輪委員会出身である。であれば、こ
の情勢になんらかの至言を発するべき立場にある。しかし、国際オ
リンピック委員会は無言である。まさに「スポーツと政治は別であ
る」の論に逃げ道を見つけている。

 しかし、この時代、2014年は、あらゆる危機的状況の先鋭に
ある。これまでの世界大戦を含む危機を経験してきたオリンピック
運動が超えなければならない何かを示さなければならない。でなけ
れば、スポーツの価値もましてやオリンピックの価値は皆無となる。

 具体的にそれならば今オリンピズムから何ができるかと言えば、
まさに日本にそのミッションが降りかかってくるのである。今回の
ウクライナ問題への日本のスタンスが秀逸しているのには、オリン
ピック東京開催の影響が濃い。

 安倍首相は東京五輪招致でスポーツポリティックスを学んだ。そ
れは外交の中心は国ではなく国を超えた理念にあるということだ。
それをしっかり認識したかどうかは別にして五輪招致のゴールに対
しては全てをなげうって、すべての国に対して誠意を尽くした。

 その中でロシアのプーチンとの関係が開けた。五輪招致に関して
言えば、オバマの米国はいつもプレーンな存在であるから、そこに
政治が入り込む余地がないのである。一方プーチンはスポーツも政
治のツールと見ているからこれを積極的に利用する。

 ウクライナの紛争は、内紛である。そこに解決を見出せるのはそ
こに責任のある人々だけだ。だからこそ平和的な解決にオリンピズ
ムが介入する余地がある。

 東京五輪招致とソチ五輪の成功の挟間で築いた絆をもって、日本
外交はロシアにナショナリズムの凌駕を諭すことができるであろう
し、ソチ五輪の成功を汚さないためにも、今何がロシアに必要かを
プーチンに投げかけることができるだろう。オリンピズムによって
説得するのだ。

 その限りで、米国にも日本がプーチンを説得できる唯一の国であ
ることを東京五輪開催の立場から訴えることができるだろう。

 オリンピズムのスポーツポリティクスというのはこういうことで
ある。そのことを理解したアドミニストレーションをIOCに望む。
ソチ五輪のIOC調整委員会委員長として尽力したキリーIOC委
員の辞任は、プーチンのナショナリズムを止められなかったことの
切腹と見るのは私だけだろうか?

                         (敬称略)

2014年4月9日  

                        明日香 羊         
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                                  ────────<・・

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編集好奇
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 東京五輪に浮かれている場合ではない。オリンピズムによる
世界平和を本気で訴える必要がある。それだけの使命がオリン
ピック関係者にはあるのだ。

 皆様のスポーツ思考を期しつつ

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  考?ご期待
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コメント

  • 圧巻

    この論、なかなか圧巻ですね。
    貴兄ならではだと思います。
    「オリンピズムのスポーツポリティクス」が
    世界の国々に対して国際連合以上に
    効力を発揮できるかどうかの実践は、是非見てみたいものですね。
    ナチスはともかくも、ロシアのような国家がオリンピックをプロパガンダ
    として用いられるのならば、逆にそれを逆手にとって国家に圧力や
    牽制をかけつつモラルを示すということもまた可能かも知れませんね。
    オリンピズムの超越的効果ばかりではなく、内在的効果ということも又
    確かにあるに違いありません。



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