オリンピズムはナショナリズムを超えるための思想

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オリンピズムはナショナリズムを超えるための思想
~産経新聞はオリンピズムを学ばなければならない~

なぜか、今日という日になって「厳格さをIOCも見習え」という過激な見出
しの記事を見つけた。ずぼらな私が連休の好天に気を得て、久しぶりに
書斎で資料整理をしていた。その時、取っておいた新聞のひとつの記事
が私を挑発した。記事は3月9日の産経新聞社説である「主張」。

社説と言えば、その新聞社の有能な記者が書く記事に相違ない。その社
の論説であるからその社を代表する言論である。IOCが見習うべき厳格さ
とは何か?と思って、読了してみて驚いた。この筆者はすなわち産経新聞
を代表する論者は、オリンピックのことも、パラリンピックのことも、ましてや
オリンピズムの本当を何もわかっていなかった。

IOCに見習え!というのであれば、スポーツ王国に唾を吐く勇気を持って
いるのだろう。そう思ったが、その五輪認識とパラリンピックへの思いが情
けなかった。

産経新聞「主張」3月9日
「厳格さをIOCも見習え」
https://www.sankei.com/column/news/180309/clm1803090001-n1.html

この主張の主題は、ロシアの国家ぐるみのドーピングに対して、国際オリン
ピック委員会(IOC)と国際パラリンピック委員会(IPC)の取った態度を比
較し、IPCが「厳格に」ロシアの参加を認めず、一定の基準を満たした30選
手に対して、中立のパラリンピアン(NPA)として参加を認めたのに、IOCは
二人のロシア選手が禁止薬物の陽性反応を示しながら、「個人の違反」で
片付け、大会後にはロシアオリンピック委員会の資格停止処分を解除した
と批判している。

スホランとバンダビ

しかし、これは大きな誤解である。

IPCが一定の基準としたものが、何であったかを問うまでもないが、もともと
ソチ五輪でのドーピングの再検査によってロシアオリンピック委員会(ROC)
の国家ぐるみのドーピングへの関与にクエスチョンマークが付いたので、
IOCはROCの資格を保留にした。ロシアオリンピック選手団の参加を認め
なかったのである。

なぜならオリンピックは国が参加するのではなく、オリンピック運動を統括
するその地域の国内オリンピック委員会(NOC)が承認した選手が形成す
るオリンピック選手団が参加するのである。したがって、2016年のリオオリ
ンピックの時には、ロシアNOCの不正については白という判定が世界反ド
ーピング機構(WADA)から出ていたので、IOCはロシアNOCの選手団を
認めたわけである。

それに対して、平昌ではドーピングでの不正がないと国際競技連盟(IF)が
認めた選手は参加できるとし、ただし、ロシアの選手団ではなく、ロシア
からのアスリート(選手)として参加を認めたのである。

それに対して「主張」が絶賛しているIPCはリオではロシア選手団を一切
認めなかったが、平昌では30選手を「一定の基準」で認めたに過ぎない。

どちらが理にかなっているか?

この問いへの答えは、ナショナリズムの克服の問題である。IOCはナショナ
リズムを超克することによって世界平和を構築する手段としてもスポーツを
提言している。そのためにオリンピックに参加する名誉は選手個人のもの
である、その結果の栄誉も選手個人のものである。国別ランキング表の作
成を禁じているのもその理念に基づいている。しかし、一方で実在する国
家を無視するわけではなく、そこにあるナショナリズムをスポーツで統括で
きる組織としてNOCを認め、そのNOCがオリンピック理念に基づいて選手
団を形成する仕組みを作ったのである。

そして一方でそれぞれの競技を統括する国際競技連盟をそのスポーツの
権威として認め、その競技に所属する選手の管理をIFに委ねているので
ある。この三位一体の構造によって、巧みにナショナリズムを克服すること
ができるのである。

だからロシアが国家としてドーピングを策略したとしても、そこにロシアNOC
の関与が認められなければ、そのオリンピック運動を運営管理する母体の
資格を停止することはできないのだ。

平昌五輪で陽性反応が出たロシアの選手については、あくまでもロシア
NOCの関与は否定され、個人の違反という報告があった。ソチ五輪後の
疑惑からこれまでロシアNOCが国家と闘いながら、国ぐるみのドーピング
に対してきた努力は認められるべきと判断した結果が、資格停止処分解
除だった。

この件は、私自身が平昌五輪に行っている間も毎日IOCの幹部が議論を
続けていたことであり、クリーンで有能なアスリートを多く抱えるスポーツ大
国ロシアはどのように処遇するのか、一方で国際的に広がるアンチドーピ
ング運動のメッセージをどのように実現性の高いものにしていくのか、とも
すればナショナリズムに陥る判断を克服してスポーツのための決心をしな
ければならなかった。彼らの決断はまさに厳しく人格を重んじてなされた
のである。

IPC自身が国別メダル数を公表しているようにIPCは存在論的にナショナ
リズムに対してのアンチテーゼを有していない。だからこそ、リオ五輪でも
ロシア選手団を全否定せざるを得なかったし、平昌五輪では「中立」とい
う言葉を選手に付さなければならなかった。

オリンピズムから言えば選手はまさに第一義的に選手個人であり、「中立」
の表明は存在する根拠がない。

故にオリンピックとパラリンピックは同時に開催されるのが理想とされている
が、まさに永遠に交わることにない平行線を描くしかないだろう。

パラリンピックとオリンピックを対比してパラリンピックからオリンピックを批判
するという荒唐無稽は、さすがに私が正しく論じなければならないと思った
次第である。

IPCの公式ホームページには、堂々とソチ五輪の国別メダル数が躍って
いる。

(敬称略)

2018年5月4日

明日香 羊
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編集好奇
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現在スウェーデンで行われている世界卓球団体戦で、南北朝鮮合同チーム
が急遽結成されるという報道があった。準々決勝で対戦するはずだった両国
は対戦せずに合同チームとなった。メディアは批判的である。政治が見えすぎ
るという。1991年世界卓球選手権で統一コリアが実現された時の感動を知るも
のには、確かに安易に映る統一だが・・・

皆様のスポーツ思考を期しつつ

春日良一

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考?ご期待
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次号はvol.382です。
(1998年からの400号を目指して あと19思考?!)

スポーツ思考
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