オリンピック休戦へのハードル 〜ゼレンスキーとプーチンの五輪音痴ぶり〜

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オリンピック休戦へのハードル
〜ゼレンスキーとプーチンの五輪音痴ぶり〜

AFPが伝えるところによると、「ウクライナのウォロディミル・ゼレンスキー大統領は5月17日、インタビューに応じ、フランスのエマニュエル・マクロン大統領による今夏のパリ五輪期間中の戦闘停止の呼び掛けを拒否し、ロシア軍を利するだけだと主張した」そうである。

パリ五輪開催が迫る中、マクロンはゼレンスキーに会談の中で、戦闘休止を提案した。それに対して、ゼレンスキーは「エマニュエル、正直、私には信じられない(提案だ)。ロシアがウクライナ領への進軍にこの時間を利用しないと誰が保証できるのか、何よりも、われわれはプーチンを信用していない。休戦は敵の思うつぼなので、われわれはあらゆる休戦に反対する」と答えたそうだ。

ゼレンスキーがそういうのは尤もだとも言える。プーチンは五輪休戦を利用して戦果を得てきた。2014年のソチ冬季五輪は自らが熱心に招致して成功させたオリンピックであったにもかかわらず、閉会後にクリミアに侵攻した。五輪閉会が2月23日でその4日後である。そしてパラリンピック開会前にほぼ併合した。

マクロンとゼレンスキー 2024-05-19 1

ウクライナ侵攻は2022年の北京冬季五輪の閉会後、2月24日で、これも同じく五輪閉会の4日後であった。

プーチンは測ったように五輪を利用して領土を得ようとしている。五輪休戦は1993年から五輪開催一年前に国連総会で決議されるようになったが、近年ではその期間が五輪開会7日前からパラリンピック閉会7日後の期間となっている。

プーチンはこの休戦決議を利用して、世界が油断している隙に狙った領地を獲得する戦法をとっている。そして注目しなければならないのは彼の心の中に「五輪休戦」という概念があるということだ。行動を起こすのは五輪閉会後であり、彼の計画ではパラリンピックが開幕する前までにケリをつければいい。それならば、世界はお咎めなしとするだろうと読んでいたのである。

クリミア侵攻はプーチンの思惑通りに展開した。ウクライナ侵攻もそうなるはずだった。しかしゼレンスキーは立ちはだかった。パラリンピックが始まっても戦争は終わらなかった。クリミア侵攻の速攻劇に指を咥えるしかなかった国際オリンピック委員会(IOC)も今度は黙ってはいられなかった。オリンピック休戦は、そもそも近代五輪が成立する根本理念の基礎であるからだ。

古代オリンピア祭の復興と言われるオリンピックは、かつてギリシアのポリス間の戦争をその祭典の期間だけは止めて、オリンピアで競技会を開くという「休戦思想」を復活させるものであり、それによってスポーツによる世界平和構築を目指すものだからだ。

笑止千万なのはプーチンもまた17日、五輪休戦を支持しない意向を示唆したことだ。戦争中のプーチンにとって五輪休戦は意味がないのだろう。

五輪精神に律儀なマクロンは、5月5日にフランスを歴訪した習近平主席に「五輪休戦」への支持を求め、習近平は共鳴した。そういえば、習近平は北京冬季五輪開会式にやってきたプーチンにも「五輪休戦」を約束させた。プーチンは彼の解釈する「五輪休戦」だけを守って見せたが、ゼレンスキーの予想外の抵抗に策略が白日の下に晒された。

そのプーチンはAFPのインタビューで、今回の中国訪問中に五輪休戦を支持するかと問われると、「『五輪休戦』を含む五輪の基本原則はとても正しいと思う」と答えたそうだ。五輪休戦を破った男の言葉とは思えない。「IOCはロシアの選手が国を代表して五輪に出場するのを認めておらず、自ら五輪憲章の基本原則に違反していると非難した」そうだ。

五輪休戦という五輪憲章を支える礎を蹴飛ばしたことの禊が済まない国は五輪理念の世界には入れない。

とすれば、マクロンの「五輪休戦」提案を蹴飛ばしたゼレンスキーもまたプーチンと同じ土壌にいることになる。一時はウクライナでの冬季五輪を目指そうとしていた男も「五輪休戦」を信ずることに踏み出そうとしない。

ゼレンスキーも本音では休みたいだろう。しかしプライドが許さない。プーチンも同様だ。であれば、「五輪休戦」の名の下に、それを尊重するが故に「休戦しよう」と言うのは悪い話ではないだろう。「五輪休戦」を支持しない国からの選手はオリンピアンの称号はふさわしくない。ウクライナからの選手もロシアからの選手と同じ扱いになっても仕方ないではないか。

五輪憲章を改定して、「戦争当事者国の選手はオリンピックの参加はできない。ただし戦争反対を表明する選手は五輪旗の下に参加できる」としたら単純化すぎるだろうか?

いずれにしろプーチンを黙らせるにはゼレンスキーのオリンピック運動への真摯なる信仰とその行為が最も効果的であると私は思うのである。

(敬称略)

2024年5月19日

明日香 羊
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編集好奇
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それにしてもマクロン大統領の五輪精神への帰依ぶりには感心します。日本の首相は一度も東京オリンピックが休戦を求めるものだと言ったことがない。オリンピックは世界平和構築のためなのでコロナ禍の大変な状況にあるけれども頑張ってやりましょう!と言って欲しかった。各国オリンピック委員会も自国の政府に五輪休戦を訴えて欲しいものだ。イスラエルもパレスチナも同様だ。

「7.26パリ五輪開幕!徹底、実践五輪批判」が日刊ゲンダイで毎週木曜日に連載されています。ご高覧いただければ幸いです。
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