FIFAの暴走 〜オリンピックがスポーツの防波堤になるべき理由〜
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週 刊 ス ポ ー ツ 思 考 vol.523
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Sport Philosophy
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FIFAの暴走
〜オリンピックがスポーツの防波堤になるべき理由〜
最近の報道は世界中トランプ米国大統領を中心に回っている。主演トランプの世界分断劇場が展開されている。前々号(vol.521)で述べたように何でもかんでも自分が決めると猪突猛進のトランプにスポーツは正々堂々と「自律」を主張しなければならない。
オリンピックの参加資格を決めることができるのは唯一国際オリンピック委員会(IOC)なのであり、トランスジェンダーの選手の女子種目参加についてもそうであることを徹底的にトランプに教えてやらねばならぬ。それによってトランプに自分の権力が及ばぬ世界があることを示すことで彼を救済してやるべきだ。
スポーツで世界平和構築の戦略に二つの道がある。一つはIOC、そしてもう一つはFIFAである。IOCは理念体としてスポーツで世界平和を謳いスポーツの多様性を追求してオリンピックという休戦思想を継承し続ける。FIFAはサッカーという普遍性を追求して代理戦争によって世界中に平和蹴球体を実現する。両者のどちらも相対的であるが故に唯一絶対化ができない。相互に展開する運動としての価値が世界の平衡を保つ。
これが私のスポーツ世界平和論の基軸にあった。
トランプの生き方にIOCが静観状況である時に、FIFA会長のインファンティーノがトランプを前に驚くべきパフォーマンスを披露した。2026年に開催されるFIFAワールドカップに向けて開催国の一つである米国のタスクフォースにトランプが署名するというシーンだ。
大統領執務室に座るトランプの傍に立つインファンティーノは終始笑顔で弁舌爽やかにワールドカップが開催国にもたらす収益をアピールするのだった。それによれば400億ドルの収益と10万の雇用が生み出されるそうだ。共催のカナダとメキシコを除いた金額らしい。
さらに3月5日に開催されたFIFA理事会で明らかにされたように「世界のクラブサッカーの新たなベンチマークとなる」クラブワールドカップが本年6月14日から7月13日まで米国で開催され20億ドルの収入が期待されている。
マネー、マネー、マネーの世界と思わざるを得ない。
それを聞いているトランプも終始ご機嫌であった。ハッピー、ハッピー、ハッピーだ。
「スーパーボールが1日三試合、1ヶ月間行われるのと同じだそうだ。いいね」とトランプ。そして続けた。
「私は幸せだよ。大統領としてワールドカップ、オリンピックにも関われるのだから」さらに、「どっちがデカいイベントなの」と聞いた。
インファンティーノは答えた。「それはワールドカップですよ。アメリカ全土でやるんですから」
確かにオリンピックはロサンゼルス中心だ。
トランプの入管政策やトランスジェンダー対策がこれからスポーツ交流に与える影響を意識しつつ、インファンティーノ外交は揉てをしてトランプにすり寄っているようだ。これも確かに一つのやり方だろう。
「FIFAクラブワールドカップは、クラブサッカーの頂点に立つだけでなく、他の大会では見られないような、クラブ全体に利益をもたらす見事な連帯感を示すものになるだろう」と断言するインファンティーノ。
しかし、この行き方にはFIFA内部でも批判がある。すでに非常識なスケジュールの過負荷は異常だ。各参加クラブは3試合から7試合を戦う。そのため、レアル・マドリードは2024-2025シーズンの11ヶ月間に70以上の公式戦をこなすことになる。肉体的にも精神的にも疲れている多くの選手にとっても、見るべきものが多すぎる観客にとっても消化不良になりそうだ。
果たしてスポーツの威厳はどこに行ったのだろうか?
同じFIFA理事会でトランプとその一家との関係についてもインファンティーノは問われた。昨年12月のクラブワールドカップ抽選会にトランプの長女イヴァンカが参加し、今年1月の大統領就任式にはインファンティーノ自身が出席していた。
分断を招いているトランプ大統領となぜ親密なのか聞かれた彼は「W杯の成功には大統領との緊密な関係が絶対に重要だと考えている」と答えた。
2026年からワールドカップは48チームに拡大され、試合数は64から104に増える。さらに、2030年の100周年記念大会には64チームが参加予定だ。
オリンピックが長年ずっと批判されてきた商業主義と肥大化をまさに促進するFIFAのあり方こそ今まさに問題とされるべきではないか?メディアはなぜかオリンピックの商業主義は非難するがサッカーの世界のそれを批判しない。
IOC会長に立候補している7名は皆、45年を経たオリンピックマーケティングの疲弊を理解し、改革を考えている。IOCの商業主義は理念であるスポーツによる世界平和構築を実現するためにモスクワ五輪をボイコットさせた政治権力に勝つためだった。1980年が始まりなのだ。そのマーケティングモデルが老化した今、新たなマーケティングは理念中心主義になっていくだろう。
FIFAは、2019年から2022年のサイクルで歳入を76億ドルに増やし記録を更新した。パリ五輪と同等の金額だ。しかし2023年から2026年のサイクルでは、そのほぼ2倍となる130億ドルの収入を達成するという目標を掲げている。これで明らかにオリンピックを凌駕する。この資金は自由に流れて今後も続くとインファンティーノは大喜びだ。
オリンピックが利益優先主義のFIFAとバランスを取らなければならない。思えば五輪の商業主義が本格化したのは1984年のロス五輪からだ。もしかするとインファンティーノは2028年のロサンゼルス五輪の露払いを引き受けたのか?彼はIOC委員でもあるのだから、オリンピックのことも少しは考えているだろう。
FIFA方式で莫大な利益でトランプの心を奪い、彼からオールマイティなビザを取得する。それはロサンゼルス五輪にも有効なのかもしれない。そのためにもオリンピックはスポーツの防波堤にならねばならぬ。
(敬称略)
2025年3月15日
明日香 羊
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編集好奇
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インファンティーノのゴマスリ振りは営業マンそのもので驚いた。
それが秀逸かどうかはロサンゼルスに2028年に聖火がやってくるかどうかで分かる。
来週月曜日発売の日刊ゲンダイではIOC会長選挙の連載は最終回。
20日の選挙を占います。
https://www.nikkan-gendai.com/articles/columns/5241
「2024パリ大会 徹底、実践五輪批判」日刊ゲンダイ連載、全18話
https://www.nikkan-gendai.com/articles/columns/4728/495
Forbes Japanで開会式について五輪アナリスト春日良一が分析。詩的スポーツ思考。
https://forbesjapan.com/articles/detail/72709
YouTube Channel「春日良一の哲学するスポーツ」は下記から
https://www.youtube.com/@user-jx6qo6zm9f
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