昭和天皇のオリンピズム 〜勝利よりもフェアプレーを〜

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昭和天皇のオリンピズム
〜勝利よりもフェアプレーを〜

2019年の2月、私は修猷館にいた。福岡の名門高校である。休日であったが、副校長や前校長までが出迎えてくれた。同校出身の安川第五郎が1964年の東京オリンピック組織委員会会長となり、大会成功の印として、時の国際オリンピック委員会(IOC)ブランデージ会長から、オリンピックの旗をプレゼントされ、オリンピックスタジアムに掲揚されたその旗を安川が母校に寄贈した。その経緯を確かめたかったこともあり、福岡在住の友人に労をとってもらったら、大ごとになってしまった。

同校からは明治以来、各界をリードする著名人が拠出しており、彼らの偉業、作品などが展示された立派な資料館が同校内にある。普段は閉じられているその館を案内してもらうと、その中に五輪旗が堂々と展示されていた。その五輪旗が当初は同校の運動会(体育祭)の入場行進の先陣を切っていたというから驚いた。さらに驚いたことに安川が東京五輪前後に同校で行った記念講演が本となっており、その本の貴重なコピーを私のために用意してくれた。

実業家として一世風靡した安川にとってスポーツは未知のものであった。組織委会長に自らがなるなどとは何かの間違いと思っていたそうだ。組織委の人事のゴタゴタは初期の事務総長を務めた田畑政治の自伝に詳しいが、政治家とスポーツ界との闘いの中から、中立的な存在である財界からの人材が求められたのが大筋の流れと私は見る。門外漢の安川にはスポーツ界で名を馳せるような野心もなく、純粋に素人としてオリンピックに係ることができたのだろう。彼の自伝「聖火」には彼がオリンピックに関わって知る驚きの真実が記されている。

修猷館

中でも、私の心に残っているのは、宮内庁の要請で、昭和天皇に大会準備進捗状況を報告する場面である。ここでも安川は「素直に」緊張し、陛下がスポーツ通であり、専門的な質問が浴びせられるのではないかと恐れを抱きつつ御所に参上する。予想どおりの数々の鋭い質問に四苦八苦しながら回答する安川の姿が目に浮かぶが、それ以上に陛下の質問がただ事象的な事項だけでなく、オリンピックの本質に迫るものであることが印象的である。スポーツ音痴を自認する安川が純粋無垢に五輪開催準備に携わっている中で必死に答えるからこそ創出された情景なのかもしれない。

「立派な競技場が方々にできるのは結構なことだ。オリンピックが済んだ後はいったいどうするか」昨今叫ばれるレガシーの問題を突かれている。安川は「今は準備に精一杯で、維持利用については、これから」と正直である。

「何千という海外から来る選手に愉快な生活を送ってもらうだけのサービスを心配しているのか」東京2020が招致で強調したおもてなしの心。安川は「ホテル協会に一任した」と首を垂れた。

そしてこれまでなんとか答えてきた安川が最後の質問に絶句する。「金メダルを15以上取らなければ国辱だとか聞いたが、・・・真の目的は参加することにあると聞いている。日本選手としては、どこまでも勝負にとらわれないで、フェアプレー、スポーツマンシップを離れんようにせねばならぬが、それに対してどれだけの訓練をやっているか」

オリンピズムの真髄を突く問いである。安川は「技術だけでは勝てない、精神修養が必要」と根性論で回答しているが、それは昭和の常識が答える精一杯だったかもしれない。陛下のオリンピズム理解はその上を行っていたということだ。

昨日、4月29日は昭和の日。昭和天皇生誕記念日だ。オリンピズムなき令和の日本に、天皇のオリンピズムを偲ぶ。

(敬称略)

2022年4月30日

明日香 羊

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編集好奇
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東京五輪2020の開会宣言。「私は、ここに、第32回近代オリンピアードを記念する、東京大会の開会を宣言します」東京1964の時は「記念する」が「祝う」だった。そこにコロナ禍で国民の多くが開催に不安を抱く状況を配慮したと勝手な解釈が蔓延っていたが、原文は五輪憲章で決まっていて、その部分は「celebrating」。不変である。

春日良一

【ダイヤモンドオンライン】
北京五輪の「オリンピック休戦」をむげにしたロシア、
IOCバッハ会長の葛藤
https://diamond.jp/articles/-/298005

【ゲンダイデジタル】
IOCへの諫言 五輪憲章から矛盾を糺す
https://www.nikkan-gendai.com/articles/columns/4322/495

日本と世界の重要論点2022↓
【Daiamond Online】
東京2020が日本人の記憶に残らない理由、北京に引き継がれた不信感と意義
https://diamond.jp/articles/-/291658

【Forbes Japan】
「命と引き換えにするほどの価値があるのか議論すべき時」
https://forbesjapan.com/articles/detail/39575
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考?ご期待
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次号はvol.459です。

スポーツ思考
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日刊ゲンダイ連載!
「実践五輪批判〜20年東京五輪これでいいのか?〜」
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NHK大河「いだてん」を思考すると題して始めたブログ
「純粋五輪批判」
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哲学者カントの純粋理性批判と実践理性批判から拝借
「実践」では実際に五輪がオリンピズムを実現しているのかを批判
「純粋」では大河を触媒にオリンピズムの本当を解説

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コメント

  • 昭和天皇は、あの人は人間としても学者としても一流だったと思います。

    昭和天皇は、あの人は人間としても学者としても一流だったと思います。
    何せ乃木大将などの明治の精神、そして南方熊楠などの学問の精神が
    ビシッと入っていますから。
    ただ軍部や国全体が神として宗教化し、はては人類を考える前に国家で
    完結してしまったから、不幸だった。
    このことは三島の死などにまで影響を与えており、またこの国家と宗教が
    癒着して早まったカタルシスに陥るというのは、今回のプーチンとキリル
    総主教(ロシア正教会)の癒着などにも見られる共通の迷誤であり、これは
    ロシアという国を誤り、また国民をも人類に目覚めぬものとして終わらせると思います。


    一にかかって人類、そしてソ連のガガーリンも観た宇宙からの地球を視野に
    行動してほしいが、プーチンにはその資質がない。柔道も、犬も、本質的に
    理解していないし、愛していない。ましてオリンピズムなど対極にある。
    安川第五郎のような素朴な初心か、昭和天皇のような知悉が要りますね。



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