IOC委員の概念 〜なぜ、ロシア人のIOC委員が辞めないか〜

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IOC委員の概念
〜なぜ、ロシア人のIOC委員が辞めないか〜

一昨日、2022年5月20日にリモートで開催された第139次国際オリンピック委員会(IOC)総会で、バッハIOC会長は、「残念ながら、ロシアの指導者との関係は過去数年で劇的に悪化したため、我々は訴えることしかできなかった」と明らかにした。

バッハが会長就任後、初のオリンピック開催は2014年のソチ冬季五輪。スポーツの力を政権維持に利用したいプーチン大統領にとって、バッハは超V I Pであった。一方、スポーツによる世界平和を胸に抱きIOC会長に当選したばかりのバッハにとっても、スポーツが政治を超える姿を見せるカウンターパートとして、プーチンは格好のパーソナリティであった。

今でも記憶に残るシーンは、ソチ五輪終了時のディナー。バッハを始めとするスポーツ界の要人に囲まれて晩餐を振舞うプーチンの底抜けな笑顔。恐らく政治的成功では見せたことのないものだった。

Bach&Putin

その限りにおいて、プーチンは「使える」材であった。彼の権威主義を利用して、スポーツによるより平和な世界を求める様をバッハは世界に示せると思っていただろう。

しかし、プーチンはソチ五輪閉会の翌日、クリミア半島に軍事的侵攻を行った。このことを識者はオリンピック休戦違反と決めつけるが、プーチンの理解は違う。オリンピックが武器を置いて平和的にスポーツにて闘うイベントであり、そのために四年に一度の休戦を実現することがオリンピックである。故に、オリンピックが終了した翌日からは自らは政治的指導者として振舞う。そのために武器を取ることも辞さない。

国連の採決を得た五輪休戦期間は、オリンピック開催7日前からパラリンピック終了7日後までであるが、五輪主義に基づくオリンピック休戦はあくまでも五輪開催期間である。

なぜ、バッハかこの時、五輪休戦違反を咎めなかったかの消去法的理由の一つには、同様の根拠がある。そして、さらにはこの時のクリミア併合が「無血開城」であったことも理由に付与される。

プーチン的言い訳は「原則的なオリンピック休戦の思想は尊重した。その後の政治的行動は容赦してくれ」であった。バッハはソチ五輪の成功と引き換えにこの理屈を飲み込んだ。

その信頼は、ソチ五輪での国家的ドーピング違反の問題が浮上しても揺るがなかった。マクラーレンレポートが示した証拠によって、ソチ五輪でのロシア選手のドーピング違反が続々検出される中、2016年のリオ五輪にロシアの参加を認めるべきではないという世界アンチドーピング機構(WADA)の勧告に、バッハはロシアとしての参加は容認しなかったが、潔白を証明できたロシア選手の参加を認める方針を示した。これもメディアから多くの批判が出たが、プーチンがこのドーピング違反に対して謝罪し、解明に協力することを世界に表明したこと、そしてWADAはロシアオリンピック委員会の関与を特定できなかったことが理由となった。

バッハはオリンピックとスポーツを政治から守るために「政治的中立」という概念を導入する。2018年のことだ。それによってスポーツは政治から距離をおき、政治はスポーツを超越的理念として利用することができる。それは戦争回避の役割を果たすことができる。しかし、それはあくまでも軍事的均衡が破られないという条件の下である。軍事的均衡を維持するためにスポーツが政治的対立を緩和する場として、積極的な働きをしなければならない。「政治的中立」をスポーツ側の武器として、政治に圧力をかけなければならない。

それができなかった結果が、プーチンの武力行使に繋がった。プーチンは恐らく、最初の軍事侵攻からパラリンピック開幕前までの終戦を画策していたはずだ。そうすれば、パラリンピックにロシアの選手が参加することに支障はなかったはずである。

IOCはロシアが武器を取った瞬間に、プーチンを切った。2001年に授与した最高位名誉勲章オリンピックオーダー金賞の剥奪を通告し、ロシアとベラルーシの選手の国際スポーツ大会への参加を認めないように全国際競技連盟(IF)に勧告した。これまで守ってきたプーチンとの絆は切れたのだ。

プーチンはパラリンピックにロシアの選手が参加できないと知るや否や、同時期にロシア国内で友好国をも招き代替大会を開催した。しかもロシアとベラルーシをパラリンピックから締め出したことがオリンピック精神に反するとスピーチした。

この瞬間にバッハの堪忍袋の尾が切れた。

この勢いに乗じて、反ロシア勢力、アングロサクソン閥はロシア勢力のスポーツ界からの掃蕩作戦を展開してくる。IFの役職からロシア人は消えていく。オリガルヒの一人、ウスマノフはIOCにも相当な貢献をしてきたが、即、フェンシング協会会長から追放された。スイスのスポーツ大臣ビオラ・アムヘルドは「選手だけでなくIOCの役員も追放して完全排除するように」バッハに要請した。

当然と思うが良識。しかし、オリンピズムはIOC委員を保護する。なぜか?その人がロシア人であろうが、なかろうが、理論上はIOC委員はオリンピック運動を代表して、世界に派遣される五輪大使であるからだ。多くの人々は、IOC 委員がそれぞれの国や地域を代表してIOCに派遣されている国連大使のように考えているだろうが、IOC委員は構造的にその逆である。オリンピックの精神を自国に伝えるミッションを託されているのである。

それ故にこそロシアのIOC委員の使命は重い。自国の政府に対して、オリンピック精神から武器を置くことを伝え、より平和な世界を構築することに貢献しなければならない。

陸上棒高跳びで2004年アテネ、2008年北京、五輪金メダルのエレーナ・イシンバエワ、ロシアテニス連盟のシャミエル・タルピシェフ会長の行動に注目せざるを得ない。

しかし、戦争遂行国にいる二人に何ができるのか?

「我々は誰がこの戦争を発言や行動で支持しているか、注意深く監視している。ロシアでは戦争に反対することが最長で懲役15年の罪に問われる。さすれば、沈黙がメッセージになると理解している」とバッハは発言している。

第139次IOC総会後の会長会見でバッハは「我々はどんな状況であろうがオリンピック競技大会を開催することに注力するしかない。政治を超えてスポーツがあることを示す努力をするしかない」と締めた。

「戦争を起こした(武器を取った)国のオリンピック委員会の資格を剥奪し、一方で、戦争反対を含む選手参加資格宣言書に署名した選手は五輪参加できるように五輪憲章を改正すべきではないか?」という私の質問は、次回のIOC理事会まで封印した。

私にとっても今は沈黙がメッセージである。なぜなら以上の私の意見は既にIOCには送ってあるからだ。次の機会に一石を投じたい。

(敬称略)

2022年5月22日

明日香 羊

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編集好奇
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昨今、改めて「スポーツの世界史」を学んでいる。なかなか面白い。
スポーツがたかだかまだ130年くらいの歴史しかないと思えば、
今、オリンピックが悪戦苦闘している瞬間は、矢の如しである。
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春日良一

【ダイヤモンドオンライン】
北京五輪の「オリンピック休戦」をむげにしたロシア、
IOCバッハ会長の葛藤
https://diamond.jp/articles/-/298005

【ゲンダイデジタル】
IOCへの諫言 五輪憲章から矛盾を糺す
https://www.nikkan-gendai.com/articles/columns/4322/495

日本と世界の重要論点2022↓
【Daiamond Online】
東京2020が日本人の記憶に残らない理由、北京に引き継がれた不信感と意義
https://diamond.jp/articles/-/291658

【Forbes Japan】
「命と引き換えにするほどの価値があるのか議論すべき時」
https://forbesjapan.com/articles/detail/39575
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