オリンピズムの壁、ナショナリズム 〜しかし、あらゆる壁が扉になる〜
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週 刊 ス ポ ー ツ 思 考 vol.481
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Sport Philosophy
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オリンピズムの壁、ナショナリズム
〜しかし、あらゆる壁が扉になる〜
FrancsJeuxというフランスのスポーツニュースレターは、国際オリンピック委員会(IOC)が行った5名のオリンピアンへのインタビューを掲載(発行は5月4日)した。ロシアとベラルーシの選手が国際競技会に復帰する問題についてはここ数ヶ月世界の議論となっている。少なくとも欧州にとっては大きな争点である。
実際、オリンピアン(オリンピック出場経験選手)はどう思っているのか?彼らの意見は傾聴に値する。フランスのバイアスロン選手だったマルタン・フールカデは2010年バンクーバー、2014年ソチ、2018年平昌の3大会連続出場しているゴールドメダリスト(5個)である。
彼の部分は長文であるが、そのまま私訳にて掲載する。
「アスリートの代表として、そしてスポーツマンとして、ロシアとベラルーシのアスリートがスポーツ大会に出場できるようにすることを検討すべきだと強く信じています。 ウクライナで進行中の戦争を考えると、この問題がセンシティブなものであることを理解していますが、パスポートや国籍を理由にアスリートを競技会から除外することは差別的であり、スポーツの真髄にある価値に反していると感じます。アスリートとして、私たちは皆、共通の絆を共有しており、国籍や政治的信条が互いに競い合うことを妨げてはなりません。 アスリートとしての 15 年間、私はフランス代表として戦いましたが、政府の立場や決定を初めから支持したことはありませんでした。 私はアスリートとして、人間として、そして私の隣に並んでいる人の対戦相手として競い合いました。また、自国のアスリートや世界中のアスリートが政治やプロパガンダを超えて、公正で平等な競技場で競争できることをロシアの人々に示すことも重要だと考えています。私の立場を理解するのが難しいかもしれないことはわかっています。 私は目をつぶっていません。 しかし、私の意見は、オリンピックの価値を理解しているが故の意見です。 私の意見で、ウクライナの人々が直面しているこの恐ろしい戦争によるウクライナの人々の困難が緩和されないことを私は知っています。私は彼らと 100% 共にあります。私たちは白でも黒でもない世界にいるわけではなく、ましてやグレーの世界でもありません。私のメッセージを完全に明確にしたいと思います。私がロシアとベラルーシの選手の復帰を支持しているという事実は、私が戦争を支持しているという意味ではありません。私は戦争を支持していませんし、決してこれからもしません」
その他に、マヤ・ブォシュチュブスカ(ポーランド、自転車)、モハマド・ガレブ(イエメン、ボクシング)、キリティ・アルゴ(スリナム、テコンドー)、ヴィクトリー・ロー・ヌゴン・ヌタメ(カメルーン、バレーボール)が意見を述べているが、戦争には絶対的に反対であるが、ロシア、ベラルーシの選手の復帰はアスリートとして擁護する立場である。
もちろん彼らもその意見が実際に戦争に直面しているウクライナの選手には耐え難いものであることを理解し、かつ多くの人々がそう思うことも予想した上で、それを乗り越えて人と人が手を繋げることを示すことが世界平和を実現する道であることを示唆している。
問題は今、ウクライナ戦争を止める手段として何ができるか?ということであるIOCが推奨したのはそのためのスポーツ利用ということだ。そしてこれはrecommendationであり、日本語では勧告と訳されているようだが、「薦め」が本意であり、この決断はそれぞれの競技を統括し、選手が登録されているIFに委ねられているのである。来年のパリ五輪への参加資格認定を見据えて、その動向を見極めいかなる決心が妥当かをIOCが決めることになる。
故に産経新聞の「主張」には驚いた。「ロシア勢の処遇 IOCの独善は許し難い」とのタイトルで、4月9日に発行されたものだ。「IOCが国際大会から除外されているロシア、ベラルーシ両国の選手について、『中立』や個人参加を条件に復帰を認めるよう、各国際競技連盟(IF)に勧告した」ことが独善でないのは、先の説明で明らかである。この「主張」は国際スポーツ機関の構造を全く理解していないようだ。さらには、「『スポーツは排除や分断ではない方法で平和への扉を開くことができる』としたバッハIOC会長の言い分は、数々の戦争犯罪を伴うロシアによるウクライナ侵略から目をそむけた空論だ」とするが、IOCの「薦め」に対して各IFが競技会を実施していく過程で、選手たちが国の境を超えて、同じルールのもとに競い合う場面がこの戦争終結へのメッセージを伝えることは可能である。それは空論ではなく、挑戦である。そして「ウクライナ選手らの忍耐を前提としている点では、許し難い暴論でもある」と言うが、果たしてロシアやベラルーシに選手がどれだけの忍耐を持って、この戦争を耐えているか?全く「主張」には思い至らないらしい。国際競技会に出場するには、ロシアやベラルーシの選手は自国を象徴するすべてが禁じられるのである。
戦争終結の道を何も提示せず、その方法を自らのスポーツという世界で必死に模索しているIOCとスポーツ界を下に見ている産経新聞の「主張」は独善であり、その戦争解決策は何も示せぬ、まさに空論である。そして、「主張」はIOCの「薦め」に賛意を示している国際体操連盟(FIG)の渡辺守成会長に翻意を促すのである。まさに暴論と言う他はない。
渡辺は今月開催されるG7サミット前に、FIG主催で「G7 ジムナスティックス(体操)広島」を開催する。7カ国の体操選手らが4月下旬に広島で集まって平和へのメッセージを発信。「スポーツ界がノーモア・ヒロシマ、ノーモア・ナガサキを訴える機会」とした。スポーツ界は必死に戦争終結に動いている。
平和を実現しようとすれば、ナショナリズムの壁が立ちはだかる。しかしその壁はスポーツを使えば扉になるかも知れないのだ。挑戦する他ないではないか。
(敬称略)
2023年5月5日
明日香 羊
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編集好奇
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戦争回避の手段としてのスポーツの役割がある。多くのトップアスリートがそれを認識していることを重く受け止めた。日本のアスリートはウクライナ問題に発言できるだろうか?私のやり残した仕事はそれを伝えることだと思う。それがYouTube Channelデビューのモチベーションかも知れません。
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