プーチンのBRICS競技会 〜オリンピックが必要なわけ〜

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プーチンのBRICS競技会
〜オリンピックが必要なわけ〜

5月中旬にプーチンが次の作戦に出た。来年のパリ五輪直後に世界親善競技会開催を提案したのだ。第一回BRICS競技会というわけだ。ブラジル、ロシア、インド、中国、南アフリカの5カ国だけの大会かと思いきや、2日にケープタウンで開催された外相会議にはサウジアラビア、イラン、アラブ首長国連邦(UAE)、キューバ、コンゴ民主共和国、コモロ、ガボン、カザフスタンが代表を派遣している。

もし開催すればそれなりの参加国はあるだろう。

BRICS

国際オリンピック委員会(IOC)が今年の3月28日に声明を出して、ロシアとベラルーシの選手の国際競技会への復帰を国際競技連盟(IF)に推奨したが、その条件はあくまでも個人の参加であり国家を示すものは全て認められず、かつ戦争に賛意を示すことが許されないというもので、すなわち政治的中立と反戦が示されなければならないことになる。それはプーチンにとって苦渋以外の何者でもないだろう。これまでロシアが起こしたドーピング問題では、オリンピックゴールドオーダーを授かった身として、IOCに敬意を表し、その汁を飲むしかなかったが。

これにプーチンがどう出るか?注目していたら、政治的に繋がれる国家とのスポーツ親善大会を行おうということになったのだ。その意図の背景にはプーチンのスポーツ理解が透けて見える。彼にとってスポーツは国家のものであり、国と国とが競い合うものであるということだ。この発想がある限り、スポーツで世界平和を築くなどという理念は戯言でしかない。

しかし逆説的に、政治的に仲の良い国同士でスポーツを競い合ったところで生まれるものは政治に支配された幸福でしかないではないか?思想も政治体制も経済的格差も違うもの同士がスポーツという共通のルールの下に競い合うために集うからこそ、競争が「違いを超える」というムーブメントになり、それが友好親善に繋がる。それ故に国家がそれぞれの選手を育てる土壌として意味を持つ。これがオリンピズムがナショナリズムを肯定する唯一の方法である。

夏季オリンピック競技連合(ASOIF)会長のフランシスコ・リッチ・ビッティはプーチンが提案した大会の存在を憂慮しているようだが、「精神善用、自他共栄」の精神を理解していないプーチンがいくら頑張ってもクーベルタンを凌駕する競技会を創設できるとは思えない。実際、IFの認可と協力がなければBRICS競技会は認知すらされないだろう。

米ソ冷戦時代、CNNのテッド・ターナーがグッドウィルゲームを立ち上げて、米ソの交流を図ろうとしたのを思い出した。モスクワボイコットとロスボイコットの歪みを埋めるというのが、その趣旨だったはずだ。当時、日本体育協会国際部にいた私はGoodwill Gamesのプロモーションに頭を抱えたものだ。理念がわからなかった。聞けばそれは「善意だ」というのだった。その善意は1986年から2001年まで夏は6回、冬は1回の競技会開催で消滅した。

ナショナリズムを前提にナショナリズムを凌駕する運動が実はオリンピックの肝である。スポーツがナショナリズムに負けては逆にナショナリズムが終わってしまうのだ。この機微が理解できないとプーチンになってしまう。プーチンは2022年のパラリンピックにロシアが参加できないと決まると、ハンティ・マンシースク(Khanty-Mansiysk)で代替大会を五カ国参加で開催した。そして「これこそがオリンピック精神だ!」と吠えた。

パリ五輪の直後にBRICS親善競技大会を開催すると提唱することで、栄光のオリンピックオーダーを剥奪され、国際スポーツ界から追放されたプーチンは、バッハIOC会長にプレッシャーをかけたつもりだろうが、今回の状況から見えてくるのは、もしスポーツが世界平和に貢献できるとすれば、オリンピックの理念と歴史のあり方以外に考えられないという真実だろう。

結果が全てである。それがスポーツの残酷さであるとともに救いなのだ。

(敬称略)

2023年6月8日

明日香 羊

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編集好奇
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5月は忙しい日々でしたが、たくさん歩きました。1日2万歩を超えた日は流石に疲れました。帽子を被らなかったら大変でした。小生の頭はなぜか日焼けするのです。皮が剥ける日々が長く続きました。6月は雨が多いかもしれません。たくさん泳ごうと思います。皆様のご健勝を祈りつつ。

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