ジャニーズ問題は変われない日本の病巣を明らかにしている 〜The show must go onの本当〜

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ジャニーズ問題は変われない日本の病巣を明らかにしている
〜The show must go onの本当〜

英国BBCが今年3月放送したドキュメータリーが発端となって故ジャニー喜多川の性加害問題が衆目を浴びるようになった。不思議なことに9月7日にジャニーズ事務所が記者会見を開き、藤島ジュリー社長が事実と認めるまでの6ヶ月、テレビも新聞もあらゆる日本のメディアは積極的にこの問題を取り上げることがなかった。それどころかジャニーズ事務所に所属するタレント(ジャニタレ)をテレビは使い続けた。「伝統の」24時間テレビはチャリティー番組であるのに、MCにジャニーズ所属のなにわ男子が起用され、「愛が地球を救う」と訴えた。さらに驚くことに上述の会見後でもジャニタレを画面に見ない日はない。

それよりも何よりも驚くべきは9月7日の会見であった。外部専門家からの調査報告を受け開かれた記者会見に出席したのは、藤島ジュリー景子社長と「ジャニーズ・アイランド」社長の井ノ原快彦、そして所属タレントの東山紀之と、弁護士の木目田裕。4時間に及んだという会見の終わり1時間くらいを見たのだが、そこに展開されていたのは勧進帳であって、真実を追求するというジャーナリズムはかけらもなかった。

この会見については、ジャニーズの社名を変えないことや藤島が社長を辞めても取締役として残り、100%の株を所有し続けることなどについてメディアも識者も疑問を投げかけているが、性加害の事実を認めたことを評価する論評も見受けられる。そしてメディアは最後は「厳しい目で見つめていく」というフレーズで締めくくる。これでは問題は全く解決されていないに等しい。そのことに誰も気づいていないことが驚嘆である。

簡潔に言えば、みんな「いい子」の会合なのだ。ジャニー喜多川の罪をジャニーズ側も記者側も認め、その事実に対して、如何に自らが「いい子」なのかを演じただけである。悪人の罪に対して自分がどの立ち位置にいるかが最も重要なのだ。「私のことは嫌いになってもタレントのことは嫌いにならないでください」という藤島の言葉は本音であろうが、それによって藤島は滅私を演じているのである。新社長就任となった東山にしても「私は年内をもって表舞台から引退します。今後は人生をかけてこの問題に取り組んでいく覚悟であります」と順風満帆なタレント業を諦めての滅私である。しかし果たして彼らは何のために滅私なのか?突き詰めれば、それはジャニーズという概念に対しての奉公なのではないか?

さらに300人とも言われた記者たちは、ここぞとばかり正義の鉄拳を振り翳すような質問を浴びせる。「性加害の事実を認識した時期はいつ頃だったんでしょうか?」と聞くそのメディアに同じ質問をしても正当だろう。多くの記者たちは疑いを持ちながら、追求してこなかったまさにその人たちである。この会見では被害者のために立ち上がる「いい子」を演ずるための質問が続々と出てくる。

山本七平が解明した「日本教」が思い浮かぶ。日本人がそれと意識せず従っているあるドグマがある。日本人の行動規範を抉り出した果ての概念「日本教」は、私流に(羊流に)言えば、「世間様」というドグマに対して忠実にあろうとする日本人独特の宗教である。この宗教の前には仏教徒もクリスト教徒も神道も表現に過ぎなくなる。ジャニーズ記者会見でジャニーズ側と記者側が演じた「いい子」劇場は何時間でも続けられる演劇なのであった。故人を悪として責め続けることで、自らは「いい子」だと世間が認めてくれる。

会見後、キムタクこと木村拓哉が自らのインスタグラムに投稿した「Show must go on!」が大騒ぎとなった。自身の写真と共にジャニーが多用していた言葉を投稿し、ネット上で、《信じられない》《複数の性被害が起きていたというコトの重大性をまるで理解していない》などと袋叩き状態となったそうだ。(日刊ゲンダイ9/12(火) 9:06伝)

キムタク 2023-09-13 18

しかし、この言葉、実にこの会見の本質を突いているのではないか。「ショーは続けなくてはならない」ではなく「ショーは続くしかない」である。ショーでしかない記者会見を一刀両断にする言葉に聞こえるのだ。日本教のドグマ「世間様」を脱しない限り、世間様に頭を下げていけば「人の噂も75日」ルールが適用されることになる。となれば、社長が代わり新体制になったかに見えたジャニーズも、やっと権力による性加害追求に目覚めたかに見えたメディアも「世間」体を整えることができたことで新たな「空気」を醸成し、元のさやにおさまる。この問題を引き起こし、長引かせ、撹拌した社会としての本質的問題は不問とされる。このこと自体を批判すると「水を刺すな」と言われる。これが日本社会に変革をもたらすことができない論理である。

キムタクの投稿が、ショーを止めたいが止められない日本社会へのアイロニーであれば、本件に関する鋭い批判であったとすら言える。

実際、「The Show Must Go On!」はあのクィーン(Queen)の有名な曲のタイトル。リリースされた1ヶ月後にフレディ・マーキュリーはエイズでこの世を去る。死を覚悟した彼の歌う「The Show Must Go On!」の意味は果たして?

空っぽな空間 何の為に生きてる?
見捨てられた場所 たぶん俺達は真実を知ってる
延々と続いていく
誰が分かるというのか
俺達が探しているものを

どこかでまた英雄が生まれ
どこかでまた心無い犯罪が起きる
カーテンの裏で 無言劇の中で
持ちこたえるんだ
これ以上だれが望むというのか?

ショーは続けられる
否応なしに続いていく
心が傷ついて
メイクが落ちかけても
俺は笑顔でいるよ

(敬称略)

2023年9月13日

明日香 羊
(*)文中、羊流というのは私の名前からの造語です。この他、羊訳(私訳)、羊伝(私からの言葉)などがあります。

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編集好奇
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Queenの曲は「The Show Must Go On!」。キムタクの投稿は「Show must go on!」。定冠詞が抜けている。日本社会を漠然とさしているというのは考えすぎだろうか?だろうな。残念。

今週15日の金曜日18時からニュースオプエドというインターネット番組に出演します。「2030年ウクライナ冬季五輪」について、スポーツ文化評論家の玉木正之氏、NPO法人おりがみ理事長の都築則彦氏と論じますので、是非ご覧ください。都筑氏とは初めてですが、彼はオリンピック運動に関心を持つ若い世代ということで楽しみにしております。
https://op-ed.jp/

緊急提言「2030年ウクライナ冬季五輪の胎動」ご高覧いただければ幸いです。
https://www.nikkan-gendai.com/articles/columns/4575

YouTube Channel「春日良一の哲学するスポーツ」は10日ごとに更新されています。
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次号はvol.488です。

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