東京2020組織委員会の後悔 〜もし高橋治之が組織委理事にならなかったら〜

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東京2020組織委員会の後悔
〜もし高橋治之が組織委理事にならなかったら〜

「IOCバッハ会長は8年前、高橋治之元理事の“追放”を組織委に求めていた」日刊ゲンダイに特別に寄せた拙文がアクセスランキングトップになっていた。東京五輪・パラリンピック大会組織委員会の高橋治之元理事が9月6日(火)に再逮捕された翌日発売号で掲載された。恐らく日本では私しか知らない情報とそれに基づく分析だから、当然と言えば当然だが、いずれにせよ今回の事件を冷静に見つめるには少しは役に立ったかも知れない。

ゲンダイに特別寄稿したものはスポーツ思考の執筆を三分の一に圧縮したものであった。以下にその全文を掲載し、今回の事件について読者の良識に委ねたい。

日刊ゲンダイのアクセスランキング

再逮捕のKADOKAWAが東京五輪2020開会直前の2021年7月20日に刊行した「新TOKYOオリンピック・パラリンピック物語」(野地秩嘉、著)のプロローグに東京五輪を1年延期した高橋の功績を讃える部分がある。歴史的にも憲章上も「延期」のないオリンピックを延期させるために、高橋が動き、ウォール・ストリートジャーナルに「1年か2年の延期がいい」とリークし、IOCの先手を打ったと記述している。同書によれば、中止でもいいと考えていたIOCにとって、高橋は「厄介な人間」となったそうだ。

確かに2020年3月中旬の時点でもIOCは開催を主張し、コロナ禍でも皆で協力して行こうと呼びかけていた。どうしようもないと判断したら、その時は「中止」を選択することに覚悟していた。それがオリンピック関係者の常識的判断であった。

それ故に、同書の筆者によれば、高橋のおかげで東京五輪は延期して、開催することができたということになるのだが、「厄介な存在」となった高橋をバッハは「辞めさせることはできないか?」と森組織委会長(当時)に打診したそうだ。その話を森から聞いた高橋は一笑に付したと書かれている。しかし、そのずっと以前から高橋理事には赤信号が灯っていた。

同書が高橋の功績を讃えれば讃えるほど、彼のオリンピック延期が自分の利益のためであったことを強く裏付ける結果になっているから皮肉だ。同書には今回の事件の贈賄側の青木AOKIホールディングス元会長も五輪成功の立役者として登場している。

しかし、バッハが高橋に去ってもらいたかったのは、それよりずっと以前からであり、それには相当の理由があった。

メディア、ジャーナリスト、スポーツ関係者や電通関係者が奏でる「大物フィクサー高橋」の偶像崇拝ぶりを批判的に見てきた私だが、冷静に考えれば、既に電通を引退していた高橋を敢えて組織委の最後の理事に就任させた判断に大きな疑問が生ずるのである。森元会長の女性蔑視発言後、2021年2月、組織委改革のため女性理事を増やすべく、理事はマックスの45名となるが、それまでは35名だった。35名の最後の一人がなかなか決まらなかった。それが高橋治之だった。

それ以前に電通が組織委の専任代理店として選定されているので、もし入るならば、そのポジションは電通の入るべき場所であっただろう。それを敢えて引退している高橋にしたのは、「みなし公務員であること」に配慮した苦肉の策であったかもしれない。もし、電通の専務や取締役がそのポジションにあれば、それはお飾りに過ぎず、実務は組織委事務局が実行するだけで、そこに高橋の会社「コモンズ」が入り込む余地もなかった。電通が専任代理店として行う実務は組織委の業務規定によって管理される範囲にしかない。もし起こるとすれば、横領や背任といった事件であり、それは組織委としての裁きが可能であったし、不正の起こる可能性は小さくできた。

東京五輪開催が決定した2013年の9月、同じ総会で第9代国際オリンピック委員会(IOC)会長に就任したトマス・バッハ(ドイツ)は、オリンピック改革をその所信としていた。それがアジェンダ2020というオリンピック改革綱領作成であり、2014年に発布された同綱領の実践が彼の第一義的使命であった。中でも五輪招致活動の適正化、特にそこに蔓延りやすい不正の根絶の施策が求められた。2002年開催されたソルトレークシティの招致不正が1999年に漏洩した。招致委員会が多額の賄賂、贈答品そしてサービスを複数のIOC委員に提供していたことが明らかにされ、IOCは改革を迫られた。

結果、それまで水面下で活動してきた五輪コンサルタントたちが登録を余儀なくされる規定に変わり、彼らの売り込み合戦が始まり、招致活動の費用が余計高騰するという結果を招いていた。制裁の伴わない規定には限界があり、アジェンダ2020では「IOCは招致都市のために活動するコンサルタント/ロビイストについて、有資格者を登録制とし監視する。コンサルタント/ロビイストはIOCの倫理規程と行動規範の正式な遵守表明が登録の必須条件となる」と定められた。バッハにとって倫理規定遵守はアジェンダ2020の実践にとって、絶対的な項目であった。

ところが、2016年、東京2020招致委が13年にシンガポールのコンサルタント会社に約2億3000万円相当額を入金したことが発覚。この金が票集めに流れたのでないかと疑いの目が向けられた。同社は国際陸連前会長(陸連)で国際オリンピック委員会(IOC)委員だったラミン・ディアク氏の息子パパマッサタ氏とつながりがあり、ラミン氏は開催都市決定の投票権を持つIOC委員に影響力を持っていた。

ラミン・ディアクはスポーツマーケティング企業ISL(インターナショナル・スポーツ・アンド・レジャー)社からの収賄の容疑で、IOCの倫理委員会から調査を受け、1993年から3回にわたって3万米ドル+3万スイスフランという、欧米双方の通貨建てで巨額の資金を受け取り、2011年に警告処分を受けていたが、1999年から2015年まで陸連の会長を務めるという「厚顔ぶり」。しかし、陸連会長時代に、ロンドン五輪の前年に6人のロシア選手のドーピングをもみ消す代わりに100万ユーロの賄賂を受け取った疑惑で、フランス司法当局の調査対象となっていたので、バッハは周囲を通じてディアクにIOCから退くように促していた。そして、2015年11月にディアクはIOC名誉委員の地位を去る。事実上のオリンピック界からの追放である。

バッハにとって、そのディアクと東京2020招致委員会が関わっていたことが白日の下に晒されたことは憂慮する事態だった。ディアクと高橋治之の関係は既に2013年の段階で、バッハの耳にも届いていたので、同氏の組織委理事就任にはクエスチョンマークが付いていた。つまり、ディアクと高橋はかつてのオリンピック招致の負の遺産であり、自分の政権中に消沈すべき埋み火であったのだ。

実際、2014年の6月下旬、私の友人のIOC委員が来日した際に、私は彼とプライベートな食事を楽しむために車中にあった。移動中の車にバッハから電話がかかった。「会長からだ!」と彼がバッハの質問に真摯に答えている場面に遭遇した。その内容は竹田恒和IOC委員のことであったが、彼と高橋の関係を問うものでもあった。高橋が35人目の理事に選ばれたのはその月の初めだった。友人は「詳細は調べて改める」としたが、それはバッハが組織委会長に高橋の処遇について助言するべき内容だった。

2016年8月小池都知事が誕生し、五輪会場問題が縺れ、バッハが東京にやってきたが、その時のパフォーマンスは、小池に森組織委元会長との親密ぶりを見せつけ、会場変更があり得ないことを示すことであり、組織委人事は森に任せるしかなかった。

もし、その時点で高橋を組織委理事から外していれば、現在の事件は起こり得なかった。理事の肩書きのない高橋は、スポーンサー対象の企業にとって何の価値もないし、一方で、電通にとっても頼りようのない存在だからだ。

ロイターにラミン・ディアクへの五輪招致疑惑を問われた時、「彼にはセイコーの腕時計やデジタルカメラなどの贈り物をしたが、賄賂を渡すなど不適切なことはしていない」と強調した。しかし、五輪の倫理規定にはこう記されている。「利害関係者 (候補地の国の大使、 大使館、 常駐代表部を含む) による贈り物、 公式な栄誉、 招待、 便宜、 約束の提供はいかなる形態であれ一切禁止される」

ディアクや高橋は風評によって作り上げたシンジーケートにより利益を求めるスポーツマーケティングの過去の遺物から抜け出られない最後の二人であった。それが私の本件の見方である。

(敬称略)

2022年9月10日

明日香 羊

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編集好奇
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昨日、AbemaPrimeに呼ばれ、普段のテレビ出演では出会うことのない若き論客たちの意見を聞き、慧眼するところがあった。彼らの視点は私と違うところから出ているのだが、それが暗示する先には、私が見つめている世界がある。そのことをスポーツ思考で綴っていき、後世の賢察を期待する。そのような齢に私もなってきたのだろう。

春日良一

『NOTE』でスポーツ思考
https://note.com/olympism

【ダイヤモンドオンライン】
北京五輪の「オリンピック休戦」をむげにしたロシア、
IOCバッハ会長の葛藤
https://diamond.jp/articles/-/298005

【ゲンダイデジタル】
【特別寄稿】IOCバッハ会長は8年前、高橋治之元理事の“追放”を組織委に求めていた
https://www.nikkan-gendai.com/articles/view/sports/310969

特別寄稿!
「逮捕された高橋治之元理事には9億円 あぶり出される東京五輪招致の闇」
https://www.nikkan-gendai.com/articles/view/sports/309953

短期連載(全3回)
「東京五輪にメス!スポーツマフィアを生んだJOCの過ち」
https://www.nikkan-gendai.com/articles/columns/4389/495

短期集中連載(全5回)
「IOCへの諫言 五輪憲章から矛盾を糺す」
https://www.nikkan-gendai.com/articles/columns/4322/495

日本と世界の重要論点2022↓
【Daiamond Online】
東京2020が日本人の記憶に残らない理由、北京に引き継がれた不信感と意義
https://diamond.jp/articles/-/291658

【Forbes Japan】
「命と引き換えにするほどの価値があるのか議論すべき時」
https://forbesjapan.com/articles/detail/39575
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考?ご期待
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次号はvol.468です。

スポーツ思考
https://genkina-atelier.com/sp/

日刊ゲンダイ特別寄稿!
「逮捕された高橋治之元理事には9億円 あぶり出される東京五輪招致の闇」
https://www.nikkan-gendai.com/articles/view/sports/309953

日刊ゲンダイ連載!
「東京五輪にメス!スポーツマフィアを生んだJOCの過ち」
https://www.nikkan-gendai.com/articles/columns/4389/495

「IOCへの諫言 五輪憲章から矛盾を糺す」
https://www.nikkan-gendai.com/articles/columns/4322/495

「実践五輪批判〜20年東京五輪これでいいのか?〜」
https://www.nikkan-gendai.com/articles/columns/3625/

NHK大河「いだてん」を思考すると題して始めたブログ
「純粋五輪批判」
https://genkina-atelier.com/gorin/

哲学者カントの純粋理性批判と実践理性批判から拝借
「実践」では実際に五輪がオリンピズムを実現しているのかを批判
「純粋」では大河を触媒にオリンピズムの本当を解説

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